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要旨:

社会は聖人君子から極悪人を両極端とした善から悪まで、概ね山なりの正規分布のような人口分布で構成されていると思われる。したがってこのことを前提に、しっかりした心得を備えておいた上で、SNSなどの通信サービスを利用することが肝要である。

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人の命は、無数の組み合わせからなる父親由来の染色体と母親由来の染色体が交叉し、ランダムな遺伝的組換えが行われることによって誕生する。その組み換えの種類は膨大であり、一卵双生児を除き、事実上この世に同じ遺伝子を持った人はいない。たとえ兄弟であっても、あかの他人のように、顔立ちや性格が異なることがあるのはこのためである。まさに人はランダムに発生する自然物の典型例ということができる。

 

ところで、自然界のランダムに発生する自然現象は概ね正規分布に従うことが知られている。正規分布とは、身長、体重、模擬試験の成績などの分布グラフでよく見かける、平均値を中心とした左右対称な山型の分布である。社会の多様性の原点は、まさにここにあるといってもよいと思う。この多様性により、あらゆる生命は維持発展し、ロバースト(堅牢)な社会が形成されてきた。まさに自然は合理的にできていると思う。しかし、この多様性の中には社会にとって好ましくないものも数多いのも事実である。

 

上述したように、あらゆる生物の身体は遺伝的であるが、人の能力や性格や気質といった心理的なものは遺伝するのだろうか。運動能力が遺伝的であることはよく知られており、この運動能力が筋力などの身体だけでなく脳による身体の制御によるものであることを考えると、同じ脳の働きによる記憶力や言語能力や思考力などのさまざまな能力や、性格や気質が遺伝の影響を強く受けることは当然なことともいえる。ただ科学者は当然では証明したことにならないから、科学的に立証するために様々な研究がされているのである。そしてこれらの研究により、心理的なものも遺伝的であることが明らかになってきている。したがって、人のあらゆる生まれながらの性格や気質(本性といってもよい)の社会的な良し悪しの程度の度数分布をとると、統計的に概ね正規分布に従うと思われる。なお「社会的な良し悪し」は概念的なものであって、どのように具体化するかは本題の課題ではない。なお、人の気質や本性は変わらないとしても、性格は環境や教育の影響を強く受けることはもちろんである。性格が「遺伝的」とは、この意味である。

 

以上述べたことを前提にして、SNSが発達した情報社会における心の持ち方に一言述べてみたい。

 

現在ほど、さまざまなな情報が一般社会に溢れている時代はかつてなかった。SNSを通じてあらゆる情報が瞬く間に衆目にさらされる。SNSのない時代は、その情報の受信者の反応は限られたものになり、問題になることは少なかった。しかしSNSが普及してきた昨今、誹謗中傷など悪意のあるさまざまな情報が飛び交い、それに悩み苦しむ人が増加してきている。しかし、冒頭でのべたように、社会は善から悪までさまざまな人間で構成されている。情報が世の中に知れ渡るほど、それがどのようなものであろうと、心無い誹謗中傷を受ける可能性が高くなる。したがって、そのような悪意のある情報にいちいち反応して悩み苦しんでいては生きていけない。悪意のある情報は無視するか、強い姿勢で臨むしかない。それができないなら、不用意に批判の的になるような行為を慎む、または害のある情報にアクセスしないように留意することが大切である。有名人になることを諦めて、目立たないようにすることも一つの生き方である。ちなみに、私は「世の中には一定程度のあくどい連中が必ず存在する。なかには想像もできないようなとんでもなくあくどい人間もいる。」ということを前提にして、何があっても泰然自若の気持ちを保つように努めている。事実を十分に調査研究したうえで、最悪の事態を想定し十分な備えをするというのが、あらゆる危機に対するわたしの基本的なスタンスである。

 

一方で、情報に対する社会の反応には、たとえそれが情報の発信者にとって不都合なものであっても、社会的に好ましいものもあるだろう。どのような情報を発信するか、どのような情報を受け取るか、それをどのように解釈するかは、つまるところ自己責任である。他人を責める前に、まずは、自分自身がしっかりした心得を備えておくことが必要であることはいうまでもない。

 

一方で、SNSを使った犯罪に国境がなくなったことや、犯罪件数があまりに多く、法律や警察の対応の両面で対策が後手後手になっているように思う。わたしもつい最近、偽の通販サイトで大金を盗まれてしまった。サイトを運営するクラウドが海外にあったりして、警察も偽サイトの対策には手を焼いているようである。この急速に進展するSNS時代に対応した国際的な協力や、新たな体制が急務である。

 

参考文献:

(1)  安藤:「能力はどのように遺伝するか」;ブルーバックス

(2) スティーブン・ピンカー(Steven Arthur Pinker):「人間の本性を考える(心は空白の石版か)」(原著名:The Blank Slate: The Modern Denial of Human Nature)

(3) 東京大学:「理系総合のための生命科学」;羊土社

 

以上