2016年1月 高校サッカー決勝

東福岡 VS 國學院久我山 5-0


~規律正しいゾーンと、前プレの威力
 そして要所で絡んだ【10番】たる理由


■完璧な崩し

東福岡の10番 中村

彼もまた「異能」の持ち主であることを証明した。


東福岡は非常に規律正しいチームであった。
攻守にしっかりとポジションを守る。

チームで1、2位を争うドリブラーである両サイドは
ボールに触りたいのを我慢し、長い時間、サイドに大きく張り出し、
相手の守備を広げのに貢献した。

ボランチの鍬先は、すべての我を押し殺し
ゾーンを守り、的確に繋ぎ、
その技術を全てチームへと還元した。

藤川は前後に大きく動き、
前線に躍動を与えた。

何よりも4バックのラインが全て
中盤と連動し、くさびに対してのチェックと
中盤からのプレスバックで挟み込み

相手の攻撃をすぐに無力化するプレスは
本当に見事だった。

そして、奪ったあとは、また自分のエリアへとすばやく広がり
相手に的を絞らせない。

1TOPの餅山などは、献身を絵に描いたようなFWだった。

細かなテクニックや器用さはないものの
前線で身体を張り続け、ポストとしてまさに相手の守備に
支柱を撃ち続けた。


そして、左サイドからきれいな縦のワンツーを繋ぎ、
ゴール前から逆サイドに展開したときには、
11番の三宅は完全にフリーで
崩しきった先制点が生まれた。



この流れで縦パスを入れたのは10番の中村だった。


彼はトップ下かのように見えて、ボランチに下がったり
攻めの局面でも、サイドにふらふら動いたりする


規律正しい東福岡のなかで唯一、自由を謳歌する役目を担った。

そしてビルドアップに貢献するでもなく、
ふらふらとピッチを漂い、

ボールを持てば、自分のアイディアを前面に出した
意外性のあるプレーばかりを選択する。

時に味方でさえも意図の読めない、
ここで出せるのか?というパスを繰り出す。

そして、決勝ではその才能が光輝いた。


伝説的となった トリックプレーのFKでのゴールはともかく
サイドから展開され、中央で受けた瞬間に右足で狙ったゴールも

この試合において、ゴールを決定付けるプレーは

彼の意外性から生まれていた。


常にゲームに絡むわけではない。
ある意味 古い時代の10番に見えるかもしれない。


それでも守備時には深くまでプレスバックする。


規律正しいのが日本人。


そんな概念からどうしても膠着した試合が苦手なイメージがある。
逆に、ファンタジスタタイプは守備が苦手。


しかし彼は

守備のときの規律正しい動きと、
攻撃のときの自由な動きを両立して見せた。

餅山への浮かせた華麗なパスもまたしかり。



そして何よりも、3-0、4-0となっても
規律正しくプレスバックを繰り返す攻撃の選手。

ファーストアタックを怠らないDF陣。


さらに得点王がかかっていても、
絶好のクロスをスルーし、味方のゴールに繋げたワントップ。


全員がチームの勝利のために戦い、
最後まで手をぬかず戦いきった 5得点だった。


対する國學院久我山も、前線の選手の技術の高さ
最後まで試合を捨てずに戦い続ける姿は素晴らしかった。

5失点は苦しいかもしれない。
それでも賞賛されるべき敗者として
その姿は記憶されるだろう。

そしてそれを手を抜かず叩き潰した東福岡もまた
威風堂々とした王者として賞賛されるべきである。


最弱といわれたこの世代の東福岡。


しかし、それが彼らの戦う気持ちを高め、
そして技術が追いついたときに
彼らは最強の集団へと変貌した。

3年間しかない高校サッカー。

刹那的なチーム
そして感動を呼ぶ試合

確かに技術や戦術はユースやクラブのほうが高いのかもしれない。

けれど、そこには確かに
日本人の琴線に触れる「何か」があるもの
また確かである。