ーーー前書きーーー
時は中国の唐。
主人公は、冴えない中年の役人。
皇帝が「楊貴妃の誕生日に何かしてあげたい」
そんなささいな願いが絶望と混乱を生んだ物語。
主人公は、役人になっているだけあって相当に優秀な人物なのだが、
得意が算術で性格が真面目という、賄賂が横行する社会では邪魔者要素120点。
そんな主人公の李が策略に嵌められ、
「間に合うはずのない遠方のライチを新鮮なまま届ける」
というインポッシブルな任務を受けることから物語は始まる。
ーーー見終えての感想ーーー
この映画の秀逸なところは3層構造になっている事だと終えてから気づいた。
若干のネタバレも含むので、もし見ようと思っている人はここで止めても。
ただ、ネタバレがあっても、十分に面白い映画だとも伝えておく。
ーーー第1層
いわゆるエンターテイメントとしての映画として、
この困難なミッションに得意の計算や、Try&Errorを繰り返す
まるで現代でも通用するような主人公の聡明さ、
さらにその人柄の良さ、誰も隔てなく接する態度に、
ライチ園の長や、途中で押し付けられた奴隷、商人さえも味方になっていく。
この少年漫画のような痛快さが1つ目の層である。
困難に、友情、努力!で立ち向かう様は痛快ではある。
それでも助けてくれた人たちの想いを踏み躙るように
「国策」として本来の10倍以上のライチを刈り取っていったり、
国が味方する事で、味方になったはずの人たちには誠実さがなくなっていく。
この葛藤もまたこの話の見どころの1つである。
ーーー第2層
ただその裏では、役人たちの思惑が暗躍する。
冴えない、中堅の主人公にライチ運びを依頼したのは
そもそも、「断った人がいたから」なのだ。
時の皇帝の願い。
これは断るわけにはいかない。
でも現実的にできるわけがないのだ。
冷蔵技術もない時代に5000里を、新鮮なまま運ぶことはほぼ不可能。
つまりは下っ端に押し付けて、「できなかったで罰します」という生贄であった。
その彼が成し遂げてしまったら、断った人たちはタダでは済まない。
さらに、彼が「できる」といったことから、宰相までもが味方についた。
No2を狙う他の重役たちは面白くない。
断った者、他の重役たち。
本来「皇帝の願い」を叶えるために助けてくれるはずの役人たちが
こぞって敵になる。
非常に気分の悪い展開が続く。
ただこれも少年漫画的に言えば、唯一味方してくれた宰相が良いやつで、
嫌がらせをしてくる他のキャラに眉を顰めながら、
「ミッションを成し遂げる」ことでカタルシスが起きる。
これが2層目の構造だ。
ーーー第3層
さあここからが、この映画の秀逸なところだ。
ここまではよくある構成だし、これだけでも十分に面白い話なのだ。
だが、この味方してくれた宰相は何をしたのか?
主人公に十分な権限をあたえ、運ぶための馬や人など、無限とも思える投資をした。
その原資は?
そう。。。
全ては国民への「税金」をあげることで賄っていたのだ。
つまり彼は何も傷まない。
主人公ががんばれば頑張るほど、ミッション達成に近づくほどに、
国民は搾取され、夜逃げや心中など民は傷ついていく。
この構造に気付いた時、主人公は何を思ったか?
ただ世界の流れに従い、役人として役目を果たせば、
おそらくは十分な富を得ただろう。
しかし彼にはそれができなかった。
一番の味方として見えた宰相に対して、
彼は啖呵を切る。
そしてその主人公の妻もまた、肝が座った人物であった。
この辺りのセリフ回しや表情、そして社会の無情さの見せ方は
本当に素晴らしいものがあった。
ーーー最後に
道中、ただのライチの新鮮さとの勝負だったはずの旅は
まさに命懸けの旅になっていた。
暗躍する他の役人たちからの刺客。
民が夜逃げし、運搬するルートが計画通りに行かない。
それらを乗り越えて、本当に単身、、、まさに我が身1つとライチ1瓶。
それがようやく長安に辿り着いた。
そして、皇帝の願いとは、、、、
絶世の美女と称された楊貴妃の誕生日に
たまたま耳にした地方のライチを新鮮なまま食べさせたい。
それだけの些細な思いつきに過ぎない願いだったのだ。
終盤、楊貴妃の前にずらりと並んだ豪華な食事の数々。
おそらくは、それらの1つ1つにこのライチのような物語があったのだろう。
その裏でどれだけの国民が泣き、苦しんでいったのか。
そして楊貴妃がライチを手にしたその時・・・
誕生日を祝賀する舞が始まり、彼女はそっと手をとめた。
そう。
そのライチは食べられる事さえなかったのだ。
主人公は宰相に楯突いたことで死罪直前となるが、
今度は嫌がらせをしてきた役人に助けられる。
彼らにしたら、宰相の1人勝ちにさせるわけにはいかず、
宰相の税金搾取などの不正を告発しない代わりに、
この功績を分け合う、、、と。
「2人で皇帝のためにがんばりましたもんね」
という皮肉の効いたセリフ。
そして主人公は、ライチ園のあった地方に左遷となる。
ーーーラスト(ネタバレ100%)
流されたライチ園のある土地で暮らす主人公一家。
決して贅沢はできないが、幸せだったのではないか。
そうして一年後、、、長安が「落ちた」との知らせが届く。
主人公が命をかけ、全てをかけて届けたライチは食べられもせず、
そこまで尽くした国は一瞬にして朽ち果てた。
贅の限りを尽くしたと言われる長安。
そこでは、出世争いが全てであり、
皇帝の願いをどれだけ叶えられるかが全てであった。
そこに民を見る者はいなかった。
主人公は左遷されたからこそ生き延びた、、とも言えるが、
それでも祖国の陥落に涙する。
その涙は、どんな感情だっただろうか。
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これだけの構造が、実にシンプルに分かりやすく、
こねくり回すこともなく、すっと入ってくるストーリーとテンポの良い展開。
ひさしぶりにこうやって感想を書きたくなるような映画だった。






