人は孤独から逃れるために人を愛するのだろうか。

人を愛すると孤独ではなくなるだろうか。
孤独と共存する愛は存在しないのだろうか。

愛のために死を選ぶことはないだろうか。

 

 

ドア 「孤独なババロア」

 

寒い北風が吹き荒れる夕暮れ時、忙しそうな車が行き交う幹線道路の上に掛かる歩道橋の上に、一人の少年がポツンと座っていた。

少年はマフラーも手袋もせず、薄汚れたシャツを一枚はおり

薄手のズボンをはいているだけだった。
履いている運動靴は、泥水がしみこんで渇いてしまっている。

少年は両手を組み、冷たくなった手を脇の下へ滑らせ

車が忙しそうに行き交う道路を

ただじっと黙って見つめている。

なぜそんな所に座っているのか

何をしているのか

誰かを待っているのかはわからない。 


私がその少年の脇を通りすぎてから

そろそろ1時間が過ぎようとしている。

彼はまだその場を動いていない。

寒くはないのか

待ち人が来ないのか

具合でも悪くなったのではないのか


シャツの襟を立て

手をポケットにつっこんだままの少年

 

わたしは歩道橋に再びむかった。

少年の背中に何らかのサインを読み取ろうとした。
彼の目はまっすぐ前に視線を向けたまま

空中に何かが現われるのを

息を殺して待っているかのような様子だった。

彼に声をかけてみようか。

少年にはどこか人を寄せ付けないような雰囲気があった。

 

「誰かを待ってるの?」

少年は無言だった。

「家はどこ? 送っていきましょうか?」

 

「大丈夫です。もう少ししたらいきます」

「そう。寒いから気をつけてね。」

 

そんな会話がやっとだった。


夕方の時間とあって幹線道路は帰宅のラッシュをむかえはじめていた。

車のライトが次々と点灯しはじめた。

 

家の窓から見える歩道橋とその上に座り込んでいる少年を

私は気になってみていた。

 

ふと時計をみると18時を過ぎていた。

私は再び歩道橋の上に目をうつした。

さっきまで座っていた少年はその場に立ち上がり

走りゆく車をみていた。

立ち上がった少年のシルエットは、どこか軽やかにみえた。

そう思ったとたん、彼は両手を真横に上げた。
その両手を、大きく左右に振り出した。
ゆっさゆっさ。ばっさばっさ。

何かの合図なのか?

わからない。
沈んだ夕日が雲を黒く染めていて

歩道橋と少年のシルエットは、太い電線にとまった

カラスのようだった。

少年の待っていた誰かがようやく帰ってくるに違いない。
すこし安堵した。

その後一瞬不思議な感覚がわいてきた。

 

少年はわたしの夢の中に入ってくような気がしたのだ。

空飛ぶ羽毛をもつ蛇 ククルカンが頭をよぎった。

 

 

突然黒い影の少年は

歩道橋の手すりの上に立ち上がった。

まさか・・・

鳥が天空に向かって滑空する直前のように

彼はふたたび両手をバッサバッサと動かしはじめた。

次々と流れ来る車の波に向かって

その顔を空高くに向けたまま

少年は空中へとダイブした。
車のブレーキが私の耳に響いてきた。

少年は私に助けを求めていたのではなかったか。
少年の苦しみに気づいてあげるべきではなかったのか。


少年が鳥になって飛んだその場所には
襟を立てて着ていたシャツが脱ぎ置かれ、少年の存在を証明していた。

少年のシャツからは、ほんのり甘いババロアの匂いがした。
孤独なババロアの匂いだった。

 

「大丈夫です。もう少ししたらいきます」

 

彼の言葉が

何度も私の心で木魂していた。


・・・・作 yumitama

 

 

 

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