きんぴらごぼう -5ページ目

きんぴらごぼう

とにかくね、生きているのだからインチキをやっているのに違いないのさ

$きんぴらごぼう




 サボテンを買いました。



 朝起きて、なぜだかは分からないのですが、「今日はサボテンを買いに行こう。」と思いました。

 なぜだかは分からないのですが、本当にふと、そう思ったのです。部屋のインテリアをサハラ砂漠風に模様替えしようと思い立ったわけではありません。部屋が砂だらけなんて、そんなのは悪夢です。わたしは寝具をいつも清潔に保っていたくて、枕カバーは毎日かえるし、毎日いっしょに寝ているシロクマの抱き枕でさえ、週に一度は容赦なく洗濯機に放り込んでしまうような人間です。そのような人間が部屋を砂漠風にしようものなら、砂でざらつくベッドの上で、きっと眠れない夜を何夜も過ごすことになるでしょう。そんなのはいやです。

 ではなぜ朝目覚めてすぐのわたしは、急にサボテンを買いに行こうと思ったのでしょうか。
 「サボテンがわたしを呼んでいるような気がした。」とか、そんな大それていて、しかも幾人もの方々に「なに言ってるんだろう、この人…。」という不信感を抱かせかねないことは言いませんし、まず、呼ばれていません。サボテンはわたしを呼ぶどころか、その尖った風貌から、わたしを敬遠しているようにさえ感じました。

 「いや、呼ばれてなくとも会いに行こう。呼ばれてからでは遅いかもしれない。もしサボテンがわたしのことを嫌いだとして、敬遠していたとして、それがなんだっていうんだろう。会いたいんだから、会いに行こう。話はそれからだ。」そう思ったわたしはすぐに近所の花屋へ向かいました。
 するとサボテンは当たり前のようにそこにいて、「オアシスどころか砂さえないお前の部屋になんか行くもんか。」そう言われているような、言われていないような、まぁおそらくサボテンはそんなこと思ってなかっただろうけど、そんな雰囲気でわたしを迎えてくれました。こんな風にすぐ妄想をはじめてしまうのはわたしの悪い癖ですが、サボテンに思考がないと決めつけてしまうのは、なんだか悲しいことです。数々の妄想や空想こそが心と日々の生活を豊かにするのだとわたしは信じているし、第一妄想をしないわたしなんて、トゲのないサボテンのようなものです(我ながら上手く逸れはじめた話を元に戻せたと思います)。
 とにもかくにもわたしは、サボテンのその一切を寄せ付けない姿に、一瞬たじろいでしまったのと同時に、この上ない魅力を感じてしまい、すぐさま店員さんにその旨をお伝えしました。すると相手はこの魅力的なサボテンを、たった100円玉6枚と交換してくれると言うではありませんか。なんてことだ、信じられない。わたしならたった100円玉6枚でサボテンを譲れなどと言う輩が現れたなら、「おととい来やがれ!」と言って追い返します。するとそやつは本当におとといやって来て、
 「どうだ、本当におととい来たぞ。おととい来るのは、明日来るより、明後日来るより、ずっとずっと難しい。だけどわたしはそれを成し遂げた。なぜならそれほどまでにそのサボテンのことを想っているからだ。さぁ、とっととそのサボテンをこの100円玉6枚と換えてくれ、もたもたしているとわたしは今日に帰れなくなってしまう。」
 息も絶え絶えにそう話すそやつに、わたしは手塩にかけて育ててきたサボテンをすっと差し出し、
 「金はいらねぇ、とっととそれ持って今日に帰りな!そしてもう二度とおとといなんかに来るんじゃないよ、いいね!」と言って店の奥に入って行ってしまうのです。・・・こんなにも素晴らしいサボテンを手放すってそういうことじゃないのですか?いいえ、違います。現代の日本ではそのような目には見えなくとも相手の心をグッと掴むような心意気ではなく、お金という目に見えるものを差し出すことで欲しいものが手に入ります。そうなんですか、わかりました。それならこの100円玉6枚をお受け取りください。
 そんなこんなでようやくわたしはサボテンを手にすることとなったのです。

 家に戻り、「サボテンを引き取ったからには、立派に育ててみせましょう。」と勝手な責任感を抱きながら、さっそく家にある植物図鑑からサボテンのページを探し出し、読んでみました。―――なになに、サボテンは水をあげなくても育つとか、そんな風に思われがちですが、そんなことはありません。しっかりたっぷり水をあげてください。―――はいはいわかりました、どうやらサボテンはツンデレらしいです。そんなツンツンした見た目とは裏腹に、実はかまってほしいのですね、あいくるしいです。心配しないでください、実はわたしはデレデレです。もうやめてと言われてもかまってあげます。

 もしこれからの人生で、朝起きてふと、「サボテン買いに行こう。」って思うようなことがあったなら、それはきっとツンデレなサボテンからの密やかなメッセージだと思うので、恐れることなく、疑うことなく、素直にお財布だけ持って近所の花屋さんに向かってください。きっと素敵な出会いが待っていますよ。