河野広貴。
おそらく最初のJ1昇格のころからヴェルディを見続けている人なら、その名前を知らない人はいないだろう。
ヴェルディユースが生んだ、久々の天才。勇猛果敢なドリブルと高い技術は、多くのサポーターにとって希望であった。
何より、ヴェルディを深く愛していた。1年であと一歩のところでJ2降格となったシーズン、多くのJ1クラブからのオファーを受けたにも関わらず、彼はチーム愛から残留を選んだ。まるでヴェルディのバンディエラと呼ばれた平本一樹の生き写しのような存在だった。
その後、クラブ消滅危機も乗り越え、なかなかJ2から這い上がれない時期が続いても、彼はヴェルディに残り続けた。本当にヴェルディのサポーターにとって、誰もが愛する存在が河野広貴だった。
だが、2011年のオフシーズン。久々の東京ダービーの開催もあったこの年。ヴェルディは4位で、J1昇格まで後一歩のところまで迫った。しかし、最終戦の湘南ベルマーレ戦のセレモニー、彼の表情は晴れなかった。
ついに別れの時が来てしまうのか。だが一方で、これまで何度もいい条件のオファーを断り、チーム愛で残留を選んできた河野がここに来て移籍を選ぶとは信じられないというサポーターも多かった。ましてや、そのシーズンは本当に昇格まであと一歩のところだったのだから。
だが、その年のオフシーズン・・・。ヴェルディサポーターは怒りと失望のどん底に突き落とされた。
河野広貴は、FC東京に移籍してしまったのだ。
ここ数年のオフシーズン、選手が上のクラブに移籍するのはある程度の「諦め」もあった。下のカテゴリーにいて、経営難でお金も無いのもみんな知っていたから。
だが、FC東京と言うクラブは、ヴェルディが東京にやってきてから、永遠のライバルであり、憎むべき敵だったのだ。
ましてや、ユース出身で育成年代からぶつかることが多かった河野は、それを一番知っていたはずだ。なのに彼は、そんなクラブに行ってしまった。
お前、俺たちのことをからかったのか。
あんなにヴェルディの事が大好きだと言ったじゃないか。
あいつらのどこを、そんなに気に入ったんだ。
お前は俺たちに、愛想を尽かしてしまったのか。
本当に「裏切られた」「許せない」というネガティブな感情が渦巻いていた。
もし、関口がヴェルディにおける河野のような存在なら、ベガルタサポさんがそういう風な想いを抱いていても、不思議ではないと思った。
だが、ある日、まさかの出来事が起こった。
TO BE CONTINUED・・・