内田に二枚目のイエローとレッドカードが突きつけられた時、おそらく会場の7割以上を占める大宮のサポーターは大宮の勝ち抜けを確信しただろう。
キックオフからの90分、ATなどを加味しても2時間近くの時間は、今までに体感した40試合のどれよりも緊張するものだった。しかし、ゲームの主導権は圧倒的にヴェルディが握っており、いつ点が入ってもおかしくなかった。
しかし、大宮に対してヴェルディにはもう勝利しかない。引き分けですら敗退が決まる。それはシーズンの終了を意味する。そんな崖っぷちの状況で、残り30分以上の時間を一人少ない状況で戦わざるを得なくなってしまった。
試合が動いたのはその数分後だった。幾度かセットプレーで前半ほとんど作れなかった決定的なシュートシーンを経て、左サイドを駆け上がった香川が大宮DF酒井に倒され、ゴール右の好位置でのFKを獲得した。ゆっくりと優平がボールをセットする。
優平、頼むー。ヴェルディサポーターの願いを乗せたボールが美しい軌道を描き、ゴール前で張っていた平が押し込み、ゴールネットが揺れる。NACK5に詰め掛けた緑の集団が大きな歓声を上げる。大アウェイのこのNACK5において、絶対不利なヴェルディが先制点をもぎ取ったのだ。この瞬間だけは、ここがアウェイであることを忘れそうになった。
そこからの30分は生きた心地がしなかった。1点をもぎ取った後は、相手がシモビッチをはじめ交代カードを次々と切ってくると、一人少ないヴェルディはさすがに攻めることは厳しくなり、自陣に釘付けになって相手のプレスをはじき返すことしか出来なくなった。
終盤の若狭の神クリアとシモビッチのシュートがポストを直撃したシーンは遠目でよく分からなかったけれど、ハイライトで見ると本当に絶体絶命のピンチだったんだなと肝を冷やした。
そしてATの長い長い6分が過ぎ、ついに待ちに待った終了のホイッスルが吹かれた。歓喜に包まれるヴェルディのゴール裏。全身で喜びをあらわにする選手とスタッフ。そしてうなだれる大前、マテウス・・・。
歓喜に包まれ、勝利の儀式のラインダンスを行うヴェルディの選手、スタッフ、サポーター。その反対側では一部の大宮サポーターが選手たちにまばらな拍手とブーイングを飛ばし、J1への夢が断たれ、シーズンが終わってしまったことに声にならない怒りと悔しさをあらわにしていた。
しかし、ビジターのゴール裏の隣にいるサポーターに挨拶をするため大宮の選手たちがこちらに来た時、ヴェルディのサポーターたちは激励の拍手を送った。もう試合が終わった後は敵も味方もない。それをはっきりと感じるとともに、ヴェルディのサポーターの暖かさを感じた。
だが、それと同時に大宮のサポーターも厳しいだけではなく、また暖かかった。試合が終わったと同時に、既に販売されていたC自由席(アウェイゴール裏のチケット)を、多くの大宮サポーターの方が定価で譲っていた。
J1への道が閉ざされて、切り替えるのは困難なはずなのに。素直に勝者である自分たちをリスペクトし、次へのチケットを渡してくれる。
大宮アルディージャも、大手企業が母体でありながらも、しっかりと地域に密着し、多くの暖かいサポーターによって支えられているのだと、改めて感じた。
勝利の余韻に浸りながら夜まで大宮で時を過ごしながら、改めて再び感じた。
たとえ勝者と敗者が存在しても、戦いのあとに残るものは絶望だけではない。
人の優しさと、チームを愛する喜びと価値に触れた、そんな長い長い1日だった。