「また勝てないのか…」

後半の時計はまもなく45分に差し掛かろうとしていた。
 
2017年、開幕好スタートを切った我らが東京ヴェルディだったが、夏場に入って序盤の躍進が嘘のように苦戦を強いられていた。
6月の東京クラシックに完勝し、意気揚々と前半戦を折り返すかと思われたが、7月の初めにアウェイで当時降格圏に低迷して数試合ゴールすら遠ざかっていた熊本に0-4の大敗を喫してしまう。
それを機に、7月は3分け3敗と一勝すらすることが出来なかった。

なぜ、ここにきてここまで成績が急降下したのか。
90分間常に走り続けるサッカーという競技で、夏場というのは鬼門である。J3の一部以外はなるべく涼しくなるナイターとして開催されるものの、それでも他の季節に比べると負担は大きくなる。
しかしながら、理由はそれだけではなかった。
怪我人が続出とか、そんなシンプルな理由ではない。そこまで選手層が厚くないヴェルディはほとんどメンバーやフォーメーションを変えずに戦ってきたが、ここにきて各チームのマークも厳しくなり、しっかりと対策をして臨んでくるようになった。
 
簡単に失点をしてしまう。
得点も思うように取れない。
どんどんチームは負のスパイラルに陥ってしまった。
ノーマークだったチームが躍進したと思ったら、いつのまにか失速し結局は下位に低迷する、頻繁にみられるパターンだった。
 
月をまたいだアウェイ金沢との試合で0-0とようやく無失点に抑えることが出来たが、内容は褒められたものではなかった。
もう昇格争いなんてできない、今年は残留できれば御の字だ…そんなことを言い出す人も増えてきていた。
 
だが、私はスタジアムから足が遠のくことはなかった。
何度もスタジアムに足を運ぶうちに、チームがもはや他人とは思えなくなっていたのだ。
こういう時こそ、支え、後押ししなくては…
見えない力に動かされている気がした。
今節の相手はちょうど冷や水を浴びせられたロアッソ熊本ではあったが、主導権を握ったのはヴェルディだった。

前半8分、渡辺が果敢なボール奪取から攻め上がり、相手DFに危険なスライディングを受けるもかわし、キーパーとの1対1を制しゴールに流し込んだ。

しかし、スライディングを受けた時点でファウルがあったとの判定でFKからのやり直しになり、得点は認められなかった。

しかし、そのプレーで熊本の相手DFが退場処分となり、早い時間帯から数的不利に陥った熊本は自陣に押し戻され、カウンターを狙うだけのヴェルディのワンサイドゲームになった。


だが、熊本の守備は必死だった。

ヴェルディのシュートをことごとく跳ね返し、何度か訪れた決定的なシュートもGKの好セーブに阻まれた。


これだけの条件で勝てないのか。

1点取れば勝てるという期待よりも不安に心は支配されていた。

だが、選手たちが必死に戦っていることは伝わってきた。


 私の脳裏に浮かんだ言葉。

「サポーターが折れたら、選手がかわいそうだよ」

何度か出ているサポルト!に書かれていた言葉だ。

そうだ、後押ししなきゃ。

まだ時間は残ってる。勝つぞ!


時計の針が45分に差し掛かろうとしていた。

ゴール前に上がったボールが、熊本DFの手に当たる。

しかし笛はならない。

ハンドだろ!サポーターが憤る。

しかしこのプレイで熊本の選手のプレイに一瞬の焦りが生まれた。

田村がボールを拾い、ゴール前にクロス。

ドウグラスの打点の高いヘディングが熊本GKの逆をつき、ボールは今度こそゴールネットに突き刺さる!


ようやくこじ開けたあー!!!

(dazn実況)


代表戦などでしか知らなかった瞬間が目の前にある。

その瞬間、サポーターが多数、ゴール前近くに移動した。


「アレ アレ アレ ヴェルディ アレ

俺たちは 勝利のため この歌を歌う」

サポーターの魂の叫びがスタジアムに轟く。


何も考えず歌っていたチャントが、本当に深い意味を持つように感じた。


反撃に出た熊本がカウンターを狙うが、逆に奪い返しFKのチャンス。

高木善朗とドウグラスがゆっくりと時間を使い、ついに待望のホイッスルが吹かれた。


勝った!


久々のラインダンス。

「皆さん、お待たせしましたー!」

田村の絶叫。

勝利ってこんなに苦しくも嬉しいものなんだ。


勝てなかった1ヶ月と少し、それでも信じ、後押しし、スタジアムに足を運んだ。

インタビューで「サポーターの声が力になった」と言ってくれたドウグラス。


この勝利は、全員の力で掴んだ勝利。

そう、ゴール裏は、

世界で一番諦めの悪い場所なのだから。

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