相手チームの降格を目前にして
相手チームが降格寸前だった時、こちらのチームはどういった想いで試合に臨むべきか。 1度ならず2度も降格の憂き目に会い、さらに2度さらに下のカテゴリーへの降格の危機を味わったが、相手側がそういった状況だったことはほとんど記憶していない。 J1にいたのも今となっては10年近く前、さらにJ2よりも下のJ3が出来たのはここ数年の出来事。無理も無い(私が知らなかったとしたら申し訳ない) 昨日、ザスパ草津群馬はホームの東京ヴェルディとの大一番を1-2で落とし、まだJ3の順位次第では残留の可能性はあるものの(J2ライセンスを持っていないチームが数チーム上位にいるため)、自動降格圏内が確定し自力での残留が消滅した。 後が無い群馬に対し、ヴェルディはどのような状況だったのか。今のところあまり報じられていない「ヴェルディ側の視点」でサポーターの立場からこの試合を振り返りたいと思う。
ヴェルディにも勝ち点3が、必要だった理由。
後がないザスパに対し、ヴェルディが背負っていたものは、「J1昇格への希望」である。 J2昇格プレーオフ圏内の6位までの勝ち点差はわずかに3。 さらに今節、勝ち点で並んでいた横浜FCがアウェイで山形に苦杯。僅差で追っていた大分が2位の福岡と1-1で痛み分け。4差離されていた松本がアウェイで千葉に1-5でまさかの惨敗。 追い風が吹いていたのだ。 今日の勝ち点3を得ることが出来れば、プレーオフ圏内の徳島に勝ち点差で並び、さらに順位が上の松本、福岡にも迫れる。 さらに勝ち点で並んでいた横浜FCや大分にも差をつける事ができる。 プレーオフ進出、さらにまだ自動昇格の可能性も残すヴェルディには、絶対に勝ち点3が必要であったのだ。 そのチームを後押しするため、日曜の夜、雨という厳しいスケジュール、コンディションにもかかわらず多くのサポーターが群馬にかけつけた。
ザスパクサツ群馬は、強かった。
「最下位だなんて、とても信じられない。いや、この状況が彼らを強くしているのか。」 前半途中に私が思った感想だ。 前節徳島に1-4と大敗した群馬だったが、大きくメンバーを入れ替えていた。 DF陣はこれまでは控えが多く10試合以上ぶりの出場となるベテラン選手。さらに全線には怪我で離脱していた「皇帝」カンスイルが満を辞して復帰。 幾度も激しいプレスをかけセカンドボールを拾い、何度もヴェルディのゴール前に迫り、ヴェルディの決定的なチャンスを人数をかけて跳ね返した。 そこに、降格寸前のチームの弱弱しさは一切無かった。 一方のヴェルディはここ2試合で実行していた3バックを変更し、先月までの4バック気味の4-3-3に変更した。 チームトップスコアラーのアランを累積で欠いていたが変わって起用されたカルロスや、安西、高木善、ドゥグラスといった強力な攻撃陣がサイドの田村や安在の突破から何度も群馬ゴールに迫り、決定的なチャンスを作り出すが、人数をかけてブロックするザスパの守備陣を前にゴールは割れない。 また主審の野田氏のジャッジはホーム群馬よりで、ヴェルディにとって厳しい判定が多く、0-0で前半を折り返す。 後半になってもセカンドボールを拾ってプレスをかける群馬と、サイドから仕掛けるヴェルディという構図は変わらなかったかったが、後半30分、足が止まり始めたヴェルディに波状攻撃を仕掛けた群馬の猛攻が実り、久々の出場となったカンスイルのシュートにゴールネットを揺らされ、群馬が先制する。 このまま群馬が望みを繋ぐのか…そう思われた。
勝負を分けたもの
だが、勝利への執念が勝ったのは、ヴェルディだった。 8分後の後半38分、何度かCKでチャンスを作ると、サイドからのクロスに合わせようとしたドゥグラスを群馬DF一柳が押し倒し、野田主審はPKのホイッスルを吹いた。 キッカーのドゥグラスが放ったシュートはGK清水の手をかすめてそのままゴールネットに突き刺さり、試合は振り出しに戻った。 だが、選手もはるばる駆けつけた多くのサポーターも静かだった。 必要なのは勝ち点1じゃない、勝ち点3だ。全員がそう思っていたからだ。 カンスイルを交代させたことで攻撃力が低下した群馬(故障明けで大事を取った?)はヴェルディの攻撃力に圧倒され、徐々に自陣に押し込まれていく。そしてその5分後、右サイドをドリブルで駆け上がってきた梶川からのクロスに、本日決定的なチャンスを一本外していた内田達也がヘディング。このシュートが清水の手を交わしゴールに吸い込まれ、試合は逆転した。 ベンチメンバーが飛び出し、内田を祝福する。雨の中駆けつけた多くのサポーターから大歓声があがった。そして控えGK太田の子供の誕生を祝福するように、全員でゆりかごダンスを披露し、残り時間を戦うためピッチに散っていった。 そして残る2分とAT4分、スコアは動かずそのまま試合は決着した。 群馬の地、冷たい雨が降りしきる中、ヴェルディの勝利のラインダンスが鳴り響いた。 結果的に群馬に引導を渡すことになったヴェルディは側から見れば「悪役」だったかもしれない。 しかし、ヴェルディにも背負っていたものが一つある。 それはJ1に昇格したいという強き想いと、チームとサポーターの固く結ばれた絆である。