突然ですが。
犬が嫌いです。
幼稚園の遠足の日、母親と友達の家に行ってから一緒に登園しようとしていた日。
「ウチの子は噛まないし、吠えないから撫でてあげて。」
そう言って友達の母親が、私の母親に頭を撫でるよう促し、頭を撫でようと手をかざしたところで、犬が私の母親の手を思いっきり噛んだ。
母親は驚き、痛がり、取り乱した。そして倒れた。気絶したのかもしれない。
友達の母親は慌てて犬の頭を叩き、なんとか私の母親の手を犬の口から救い出した。
その後、母親は救急車で運ばれ、私も遠足には行けず、そのまま帰宅。三世代同居だったため、祖父や祖母と自宅待機し、父親が職場から病院に駆けつけたような記憶がある。
その一部始終を幼稚園時代の私は見ていたが、今でもその場面が記憶の中のハードディスクに残っている。
それ以来、とてつもなく犬が嫌いだ。
世の中の犬を愛でる方々には申し訳ないが、こればっかりは仕方ない。
でも、大抵の人に「犬が嫌い」と言うと、驚かれる。
そして「犬好きの方々」というのは「世の中、全人類が犬好き」と思っているんじゃないか、とさえ感じてしまう。猫もしかり。
それからというもの、人生で動物と関わることを遠ざけて育った。
それなのに、先日、妻と子供から「犬を飼いたい」と懇願された。お願いではない。懇願。
イオンに買い物に行くたびに、併設されているペットショップに行き、ショーケースに並ぶ「犬と猫のラインナップ」を見て目を輝かせる。
最近では店員さんに「よかったら抱っこしてみます?」という甘い誘惑に乗って、犬を抱っこするまでになった。
犬を抱っこして嬉しそうな顔をする我が子。
かわいい。
かわいいのは犬ではない。我が子の嬉しそうな顔はかわいい。
「パパも抱っこしてみなよ!かわいいって思うよ!」
屈託のない笑顔を見せる我が子から発せられる純粋な言葉ではあるが、残念ながら私には響かない。
「うん、大丈夫だよ。パパの分も抱っこしてあげて。」
心にも無い冷酷な感情ではあるが、私の分も抱っこしてもらいたいのは本音でもある。
そして、ペットショップ内で聞こえる「ワンッ!」という犬の鳴き声も私にとっては恐怖でしかない。
店内に広がる「獣臭」もきっと私しか感じない「負の香り」なんだと思う。
結局、その犬を抱っこすることもなく、店の外に出た。
イオンの店内なのに、室内なのに、なぜかそこには草原のような爽やかな香りが私の鼻を突き抜けた気がした。
妻も悩みに悩んで「帰宅して検討します」と答え、店を跡にした。
店を出るときにグズっていた子供も、時間が経つにつれて冷静になったのか、帰宅して気づいたらスマホで動画を見ていた。
妻が「なんか犬の件、時間が経って考え直したら今回はいいか、って気がしてきた。」と言い、
子供も「うん。なんか私もそう思ってきた。」
とのこと。
Yes!