この宇宙がどのように終わるか、そのシナリオは現在3通り考えられている。膨張が収縮に転じて潰れるか、急激に加速膨張して引き裂かれるか、それとも緩やかに膨張し続けるかだ。そしてその3つ目、我々の宇宙がこのままどこまでも膨張し続けた場合、最後に起きる現象はブラックホールの蒸発である。ブラックホールが時間をかけて霧散しきった時、この宇宙はその活動を静止する。それは今から10^100年後のことと言われている。
では10^100年後、それはどれくらい先のことなのだろうか。こんな例え話をしてみたい。宇宙の本当の大きさは現在まで知られてないが、ここでは便宜上、我々が理論上光によって観測し得る範囲の宇宙を全宇宙と呼ぶことにする。それは半径465億年の球状をした領域である。そしてそこには10^80個の原子があるとしよう。1億年に1度、この宇宙の原子が1つ、その振動を停止する。それは原子の熱力学的な死滅だ。次の1億年、また次の1億年と、原子は1つずつ死滅していく。それはゆっくりとした、とても静かなカウントダウンだ。そして長い長い時間をかけ、10個、20個と宇宙の原子は死滅していき、やがて全ての原子が死滅した時、我々の宇宙はその死を迎えるだろう。実際の宇宙の終焉は、その1兆倍も先のことなのだ。
気が遠くなるほど永い時間、それを表す比喩は古今無数に存在する。しかしこれほどまでに、想像することにも疲れて眠くなってしまうような話は、他にないのではないだろうか。