俺は知らない人に対してめちゃくちゃ内気だ。小心者と言ってもよい。例えば5歳くらいのめっちゃクソガキが、ソフトクリーム片手に思いっきり走ってきてベチャッと俺にぶつかったとする。俺は思わずひざまずいてへりくだり、「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?完全にこちらの不注意でした、本当に申し訳ありませんでした」と言ってしまうだろう。それくらい他人と話すのが苦手なのだ。
そんな俺は、この歳になっていまだにラーメン屋が苦手だ。食べ終わって帰る際、小粋に「どうも、ごっそさん」と言えないのだ。何も言わずに不愛想に店を出る、それがどれほど失礼で感じ悪いことかくらい分かっている。俺だって出来ることなら店主の手をガシッと握り、「ありがとうございました。本当に美味しかったです。今日このラーメンを食べることが出来、俺の人生はとても幸せなものとなりました。いえ、もしかしたら俺はこの一杯を食べるために、この世に生まれてきたのかも知れません。あなたの熱意と尽力と成果に、心より尊敬と感謝を申し上げます」と言いたい。しかしたった一言「どうも、ごっそさん」、それがどうしても口に出せないのだ。
だから俺は、ラーメン屋では必ずスープを飲み干すようにしている。「感想は?美味かったか?愚問です。この空っぽのどんぶりを見てください、それが俺の答えの全てです」。どうか察してくれ、店主さん。