「時間とは一体何なのか」、この問いに正確かつ的確に答えられる者は、世界中の物理学者たちを当たって回ってみても誰一人としていないであろう。
時間が何であるのか、結局のところそれは恐らく未来永劫誰にも分からない。そう認識した上で、俺は兼ねてからの疑問をここで投げかけたい。
「時間とは無限に続くものなのか。それともいずれ消滅してしまうものなのか」。
まず「時間は過去に向かって無限であるか」。これは俺でも答えられる、NOだ。宇宙がビッグバンにより誕生したのは138億年前、それ以前は時間も空間も存在しない「無」であった。「無」とは一体どういう状態なのか、それは俺に聞かれても困る。「無」は「無」であり「無」らしく「無」でしかない。どの専門家に聞いてもそれ以外に答えようがないだろう。
よって俺が知りたいのは「時間は未来に向かって無限であるか」。しかしこれも物理学者たちの間で意見の分かれる難解な問題である。
英物理学者S.ホーキング氏は我々が「時間」と呼んでいるもの、即ち過去と未来を区別するバロメータは次の3つの側面を持つと唱えている。
(1)宇宙膨張時間
(2)エントロピー時間
(3)心理時間
しかしそのいずれもが決して無限にあらず、やがて終焉を迎え得るように俺には思えるのだ。
(1)宇宙膨張時間
宇宙はその誕生から現在に至るまで膨張を続けている。「宇宙膨張時間」とは宇宙の膨張に伴って過去から未来へ刻々と進んでいる時間である。
しかし宇宙終焉のシナリオ候補の一つ、「ビッグリップ仮説」によれば今から数百億~数千億年後に宇宙は無限大となり、それ以上膨張しなくなるという。ならばそこで「宇宙膨張時間」の進行は終わってしまうではないか。
(2)エントロピー時間
エントロピーとは「乱雑さ」の度合いである。例えばきれいに整頓した部屋が放っておくとどんどん散らかるように、乱雑さ、つまりエントロピーは過去から未来に向かって増大していく。そのエントロピーの増大を刻んだものが「エントロピー時間」である。
しかし果てしなく遠い未来、全宇宙の物質はバラバラにそして均一に散らばり、それ以降一切の乱雑化が起こらなくなるとも言われている。そうなった時、やはり「エントロピー時間」も止まってしまうではないか。
(3)心理時間
これは我々の時間感覚が認識している時間である。過去のことは覚えていて未来のことは何も知らず、我々が過去から未来へ一方通行で流れていると感じる、それが「心理時間」だ。
しかし我々かあるいはそれと同等以上の観測者たる知的生命がこの宇宙にいなければ、そもそも「心理時間」など存在し得ないではないか。
以上の考察より俺が導き得た結論、「時間は決して無限に続くものではなく、遠い未来においてそれは消滅する」。
しかし時間が消滅するとは一体どんな状況なのか、俺ごとき素人にはまるで想像もつかない。いや、たとえ俺がどんなに優秀な物理学者であったとしてもだ。