もう3、4年も前になろうか。日本列島に大唐揚げブームが巻き起こった。次々に乱立する唐揚げ専門店、そこには長蛇の列が出来たものだ。しかしこのブームは1年と経たずに廃れてしまった。あの時の唐揚げ専門店は果たして今どうなったのか、恐らくその半数以上が店をたたんだことだろう。
所詮唐揚げも、かつて大流行したティラミスやナタデココ程度の存在だったのだろうか。いや、これらと唐揚げは根本的に違う。ティラミスやナタデココは日本初上陸の輸入品、それに対して唐揚げは、大昔から日本に根付いていた定番の家庭料理である。そしてそれこそが、唐揚げバブル崩壊の原因であると俺は考える。
唐揚げ専門店のウリは何と言っても、「外はカリカリ、中はジューシー」である。しかし果たしてそれは、唐揚げの本来あるべき姿なのだろうか。思い出して欲しい、人生で一番最初に食べて美味かった唐揚げとは。それは母親が作るお弁当の唐揚げだ。そして弁当箱の中の唐揚げは「外はカリカリ、中はジューシー」だっただろうか。否、「外はフニャフニャ、中はパサパサ」であったはずだ。それこそが、日本人の記憶の奥底に燦然と輝く、至高の唐揚げなのである。
いわば唐揚げブームは、「外はカリカリ、中はジューシー」至上主義が終わらせたのだ。しかし専門店が「外はフニャフニャ、中はパサパサ」を提供できる訳がない。つまり唐揚げとは究極の家庭料理、外食産業が入りこむ余地などなかったのである。