今からおよそ数百億~数千億年後。
宇宙の膨張速度は極限に達し、
恒星と恒星、銀河と銀河は光速を越えて離れていく。
この時、あまりにも離れすぎてしまった銀河、
その光は互いに永久に届かなくなる。
仮に地球が、そして人類が存続していたならば、
夜空は星一つない、永遠の闇に覆われることになろう。
これが宇宙終焉の極めて有力な仮説の一つ、
「ビッグチル」である。
そしてそれは、三十路を過ぎた今、
俺の周りの交友関係に極めてよく似通う。
それぞれの仕事、それぞれの家庭、
友人たちは皆それぞれの今を生きることで精一杯だ。
年々と離れゆく友たちとの距離、薄れゆく交わり。
いずれこんな日が来ることは分かっていた。
それは必然であり、致し方のないことなのであろう。
しかし俺は、ただ一人だけ例外を信じていたい。
中学以来、もう20年の付き合いになる親友・某氏である。
某氏は職場では敏腕管理職、家庭では2児の父親。
今の俺とは、あまりに住む世界が違う。
けれど時折交わす電話、とりとめのない話。
そんな極めて微弱な、あまりに儚い万有引力を、
某氏とはかれこれ10年以上も保ってきた。
いずれ光を失う星々、遠ざかりゆく銀河団。
しかし俺が見上げる夜空は、
孤独という名の漆黒に包まれることはない。
ビッグチルにさえ引き裂くことの出来ない親友の情。
ただ一人彼とは、永遠にそうありたいと願う。