「……」
「……」
「……」
「いらっしゃいませ」
「…あの…記憶を…」
「はい」
「…こちらで記憶を引き取ってもらえると…」
「はい、
私どもはお客様の記憶を買い取らせていただいておりますが」
「私の…私の記憶を買い取ってください」
「はい、どのような記憶でございましょう?」
「全部、私の記憶全部です!」
「記憶を全部…ですか…?」
「…はい…全部です。買い取っていただけますか…?」
「そのようなお客様も時々お見えになりまして、
その際は注意事項をお伝えすることになっているのですが…」
「買い取っていただけないのですか?」
「いえ、そういうことではございません。
ただ、人格とは記憶の集合体でございまして、
記憶を失うと人格の一部が欠損する、
まして記憶全部となりますと、
お客様の人格そのものが失われることになりますすが…」
「いいんです!それでも構いません!」
「よろしいのですね?」
「はい…」
「…分かりました。
では、お客様の記憶の査定に入らせていただきます。
まず、どのような経緯で記憶をお売りになろうと思いました?」
「…私は…」
「……」
「私は私が嫌いなんです。大っ嫌いです!」
「…それはまた何故?」
「それは…」
「……」
「…私はずっとイジメられて来ました」
「イジメをお受けになられた?」
「はい、小学校も中学校も高校も全部です!」
「それがお客様がご自身を嫌われた原因であると?」
「はい…」
「それはおかしいですね。
お客様がイジメに合われたのは、ご友人の方々に原因があるのであって、
それがお客様がご自身を嫌われる原因にはならないかと…」
「いえ!私が悪いんです!」
「…と言いますと何故?」
「…私がブスだからです」
「お客様の容姿に問題があったと?」
「はい…」
「それはご友人の方々の意見ですか?」
「…いえ、でもきっとそうなんです!」
「ではお客様自身がそう思い込まれたと…」
「……」
「……」
「…それだけじゃありません!私がネクラで気持ち悪いからです!」
「…それはご友人の方々の意見ですか?」
「…いえ…」
「ではこれもお客様自身がそう思い込まれたと…」
「……」
「…分かりました。
お客様の記憶の中に、
過去にイジメに合われたことが大きく内在していることはお見受けいたしました。
ただ、いささか記憶の湾曲が見られますね。
お客様はその原因を全てご自身の中に見出そうとしていらっしゃる」
「それは…」
「ではこちらで、記憶の湾曲を修正させていただきます」
「はぁ…」
「簡単な思考実験をいたしましょう。
お客様の目の前で小さな女の子が泣いていたとする。
お客様ならどうなさいますか?」
「どうしたの?と声をかけます」
「それでも泣き止まなかったら?」
「優しく抱きしめます」
「もしその女の子の容姿が劣っていたら?」
「私ならそんなこと気にしません」
「もしその女の子が物怖じして、なかなか心を開いてくれなかったら?」
「心を開いてくれるまで抱きしめます」
「では、もしその女の子が、お客様ご自身だとしたら?」
「……」
「…以上で記憶の査定は終わりです。
後はお客様が、ご自身で記憶のお値段をお決めください」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…私は…売れません…」
「キャンセルなさいますか?」
「はい…すみません…」
「分かりました。ではお代に千円いただきます」
「千円…ですか…」
「実は私ども、記憶の洗浄をその本業とさせてもらってまして…」
「……」
「……」
「いらっしゃいませ」
「…あの…記憶を…」
「はい」
「…こちらで記憶を引き取ってもらえると…」
「はい、
私どもはお客様の記憶を買い取らせていただいておりますが」
「私の…私の記憶を買い取ってください」
「はい、どのような記憶でございましょう?」
「全部、私の記憶全部です!」
「記憶を全部…ですか…?」
「…はい…全部です。買い取っていただけますか…?」
「そのようなお客様も時々お見えになりまして、
その際は注意事項をお伝えすることになっているのですが…」
「買い取っていただけないのですか?」
「いえ、そういうことではございません。
ただ、人格とは記憶の集合体でございまして、
記憶を失うと人格の一部が欠損する、
まして記憶全部となりますと、
お客様の人格そのものが失われることになりますすが…」
「いいんです!それでも構いません!」
「よろしいのですね?」
「はい…」
「…分かりました。
では、お客様の記憶の査定に入らせていただきます。
まず、どのような経緯で記憶をお売りになろうと思いました?」
「…私は…」
「……」
「私は私が嫌いなんです。大っ嫌いです!」
「…それはまた何故?」
「それは…」
「……」
「…私はずっとイジメられて来ました」
「イジメをお受けになられた?」
「はい、小学校も中学校も高校も全部です!」
「それがお客様がご自身を嫌われた原因であると?」
「はい…」
「それはおかしいですね。
お客様がイジメに合われたのは、ご友人の方々に原因があるのであって、
それがお客様がご自身を嫌われる原因にはならないかと…」
「いえ!私が悪いんです!」
「…と言いますと何故?」
「…私がブスだからです」
「お客様の容姿に問題があったと?」
「はい…」
「それはご友人の方々の意見ですか?」
「…いえ、でもきっとそうなんです!」
「ではお客様自身がそう思い込まれたと…」
「……」
「……」
「…それだけじゃありません!私がネクラで気持ち悪いからです!」
「…それはご友人の方々の意見ですか?」
「…いえ…」
「ではこれもお客様自身がそう思い込まれたと…」
「……」
「…分かりました。
お客様の記憶の中に、
過去にイジメに合われたことが大きく内在していることはお見受けいたしました。
ただ、いささか記憶の湾曲が見られますね。
お客様はその原因を全てご自身の中に見出そうとしていらっしゃる」
「それは…」
「ではこちらで、記憶の湾曲を修正させていただきます」
「はぁ…」
「簡単な思考実験をいたしましょう。
お客様の目の前で小さな女の子が泣いていたとする。
お客様ならどうなさいますか?」
「どうしたの?と声をかけます」
「それでも泣き止まなかったら?」
「優しく抱きしめます」
「もしその女の子の容姿が劣っていたら?」
「私ならそんなこと気にしません」
「もしその女の子が物怖じして、なかなか心を開いてくれなかったら?」
「心を開いてくれるまで抱きしめます」
「では、もしその女の子が、お客様ご自身だとしたら?」
「……」
「…以上で記憶の査定は終わりです。
後はお客様が、ご自身で記憶のお値段をお決めください」
「……」
「……」
「……」
「……」
「…私は…売れません…」
「キャンセルなさいますか?」
「はい…すみません…」
「分かりました。ではお代に千円いただきます」
「千円…ですか…」
「実は私ども、記憶の洗浄をその本業とさせてもらってまして…」