【妄想劇場】 傷ついた雌ライオン

傷を負って群れからはぐれた雌ライオンを、
一匹のハイエナがじっと見つめていた。

「何見てるのよ？」
「…」

「弱ってる私の血の匂いを嗅ぎ付けて来たのね。
いかにもあなたらしい姑息なやり方ね」
「…」

「腐っても私はライオンよ！
あなたごときに私がしとめられると思って？
ナメられたものね！」
「…」

「さあ、かかって来なさいよ！
その喉笛を噛み切ってやるわ！」
「…」

「何をしてるの？
怖じ気づいているの？」
「…」

「さあ、見ての通り私は満身創痍よ！
かかって来なさいよ！早く！」
「…」

「そう、私が衰えて死ぬのを待っているのね。
どこまでも卑怯なのね、あなたって」
「…」

「私は百獣の王、ライオンなのよ！
でもハイエナごときあなたに牙を突き立てることも出来ない。
滑稽なものね！
あなたはさぞかし愉快でしょう。
やがて私が力尽きて死んだら、
『俺はライオンを食い殺したぞ』ってみんなに触れて回るのでしょうね。
さぞかし気分いいでしょうね」
「…」

「さあ、笑いなさいよ！
私が死ぬのを悦に浸って眺めてればいいじゃない」
「…」

「何を黙っているの？
何か言いなさいよ！」
「…」

「…」
「つくづく哀れなものだな」

ハイエナは雌ライオンに背を向けて去っていった。

「ちょっと、待ちなさいよ！
私を侮辱する気？
かかって来なさいよ！私を食い殺してみなさいよ！
馬鹿にしないでよ！
私はライオンよ！
百獣の王ライオンなのよ！」

大地に雌ライオンの遠吠えが虚しく響いた。