【妄想劇場】 虞姫、自害す | まきしま日記~イルカは空想家~

まきしま日記~イルカは空想家~

ちゃんと自分にお疲れさま。

初めて赤い血を見た。

初めてこんなにも赤い血を見た。

そなたが自ら胸に突き刺した短剣、
その冷たく膠着してゆく骸から流れる血は、
それと対比するように温かく、

まるでそなたから体温を奪って行くかのように温かく…

何を怨まん…

このこみ上げる悔い、いたたまれぬ悔い、
私は何を怨まん…

この怨み、何処へ向ければ収まろう。
天か、漢兵か、それとも…

もはや物言わぬそなたの、
そなたの唇は何か物言いたげに、

まるで私に物言いたげに…

何故今になってそなたは私に伝える。
何故私の咎を私に伝える。

私はこの手で、
幾万の兵の首をかき切ってきた。
吹き上げる血しぶきの中を、
ものともせず駆け抜けてきた。

そなたは私を咎めるか。
その血を以て私を咎めるか。

そなたの血に染められたこの両の腕。

今、初めて血の意味を知る。
その赤さ、その温もり、
私は初めて流れる血の意味を知る。

そなたの、万民の血で染められた、
この両の腕の咎を知る。

今、凱下に押し寄せる漢兵百万、
やがて私も大地に骸をさらすであろう。

そなた亡き今、一体何を惜しもう。

いざ、赴かん。
雄雄しく死に場を求めん。

そなたの血に、血を以て償わん。
全ての血に、血を以て償わん。