太田 俊夫 国税査察官
"鉄腕を衣の手袋で包め"という訓えのとおり、彼らは今朝もまた、神田橋の国税局庁舎を出ると、目指すサンカメラ日本橋本社に向けて出発した。サンカメラ社長・山上を脱税容疑で取り調べるためである。彼らは、山上がすでに出社したという情報を得ていた。中には、二号宅で痴話喧嘩でもした結果の早朝出社だろうという者もいた。山上は、女子社員の淹れたお茶を啜りながら、ともすれば昨夜来の礼子との情事のために居眠りさえしそうなほど疲れていた。そんな矢先、人相のよくない男たちがノックもせずに彼の部屋に入り込んできたのである。彼は一瞬強盗に襲われたと思った。しかし、彼らが手にした手帖には金箔のマークがついていた。彼の心臓は瞬時のうちに凍りついてしまった。調査は進められ、彼の自宅にまで手が伸びた。妻の和服の間や子供部屋まで、容赦ない調査は続く。そして、やっと当局の追及を逃れた彼は、一冊の極秘手帖がどこにも見あたらないのを知った――。
太田 俊夫 株主総会殺人事件
戦後たった二人で創業された音響メーカー東亜。いまでは世界にそのブランドを誇るまでに急成長していた。その東亜の株主総会で衆人環視の中、議長が殺害された。トップの座を狙う創業者の一人に可愛がられた大門四郎は秘かに犯人追及に乗り出すが、事件は戦時下の中国に遡った。 有名企業に群がる大物総会屋、悪徳政治家さらに「壊し屋」を名乗る謎の旧機関員など企業の暗部に巣くう男たちの黒い欲望。
太田 俊夫 脱税容疑社
商事会社社長宅から、お手伝いが額面8千万円の定期預金証書を持ち逃げした。――との新聞報道を目にした国税査察官・赤領は、インフレ時代の世相を象徴するものとして揶揄的に表現されているこの拐帯事件の陰に何が隠されているか、ピンとくるものがあつた――。 彼はすぐさま部下の上原に調査を命じたが、しばらくして奇妙な投書がもたらされた。それは・・・・・・あの8千万円は関西系大手商社「アカタ産業」との取引で生じた裏金であり、それをクラブの女につぎ込んでいる!・・・・・・とのいわば亭主の浮気に逆上した女房の密告であった。 この一つの拐帯事件から、国税局のターゲットは巨大商社「アカタ産業」へと絞られていった。