こんばんは!
新年早々多忙で時間がないのに加え体調を崩してブログの空白期間ができてしまいました(_ _;)
気を取り直して読書メモ投稿します!
本日紹介する書籍はこちらです。
町田そのこ先生著,『あなたはここにいなくとも』です!
Amazon.co.jp: あなたはここにいなくとも : 町田 そのこ: 本
○あらすじ (短編集のため各話ごとに簡単に記述)
① おつやのよる
主人公は広告代理店勤務の清陽(きよい)という女性。
恋人の章吾と休日を過ごすつもりが,祖母が亡くなったという連絡で地元に帰ることに。
章吾もついてくると言ったが,清陽は気がすすまず断ってしまう。
しかし,祖母は清陽の恋人に会いたい,地元に連れてきてほしいと何度も言っていたようである。
清陽が章吾を実家に同伴させられないのには別の理由があった…
② ばばあのマーチ
主人公は香子という女性。
前の職場での問題から再就職する活動に踏み切れずにいる。
その様子を恋人の浩明に良く思われていない。一方で,香子は浩明との関係が対等でないということに引っかかりを覚えている。
そんな折に,近所で数えきれないほどの食器を用いて,音楽を奏でている「オーケストラばばあ」の様子が目に留まる。
近所の人々からは良い噂を聞かないが,香子はふとしたことがきっかけで「オーケストラばばあ」と関わりをもつようになり…
③ 入道雲が生まれるころ
主人公は看護師として働いている萌子(もえこ)という女性。
祖父の親戚と伝えられていた藤江さんが亡くなったということで帰省してくるよう言われて地元に帰ることに。
萌子は正式な診断はついていないものの,いわゆるリセット症候群であるようで急に何かのつながりを手放したくなってしまう。その影響か,その日も順調に付き合っていた恋人の海斗に捨て台詞のような書き置きをおいて分かれたことにしてしまった。
さて,実家では藤江さんが実は祖父の親戚でないということが判明した。そして,祖父の浮気相手といううわさまで親戚内にたってしまう。
その場から抜け出した萌子と妹の芽衣子は藤江さんの住んでいた家に。そこに残されたものから見えてきたものとは…
④ くろい穴
主人公は会社員の美鈴。
栗で渋皮煮を作っているが,実はそれは不倫相手の真淵さんの奥さんに欲されているものである。
そんな理由で祖母直伝の渋皮煮を作っていることに違和感を覚えつつ,作業を進めていたところ,栗の中に穴あきのものが1つあった。
灰汁抜きを何度しても黒い汁が表れるのは,その穴あきの栗のせいかもしれない,と思いながらも作業を続ける。
その穴あきの栗は形を崩すことなく残り続け,最終的に渋皮煮になる。
そして,その穴あきの栗を含んだものを不倫相手に渡すことに…
⑤ 先を生く人
主人公は高校生の加代。
幼馴染の藍生とは,違う学校に通いながらも毎日一緒に途中まで登校する間柄だったが,急に藍生が朝早く出かけるようになる。
どうやら藍生が恋に落ちたと感じた加代は情報を集める。すると,老婆と一緒にいたという目撃情報を得る。
真実を確かめるべく早朝に藍生を尾行する加代。果たしてその先で見たものは…
○感想
すべてのお話について,
「何か問題を抱えている主人公またはその周りの環境」
に対して
「道しるべとなる対象(ただし最終的には自分の手元にない,あるいはなくなってしまったものがほとんど)が表れ,解決はしないものの問題に向き合っていくようになっていく」
という構造になっているように感じます。そういったところが本書の共通テーマになっているのかなと思います。
タイトル「あなたはここにいなくとも」というのが何となくリンクしているのかなと疑問をもっていましたが,
個人的な見解としては「人生の道しるべ」となるものが実態として主人公の同じ場所にないということなのかなと思います。
具体的に,「お話→人生の道しるべとなる人,もの」という書き方で表現すると,
おつやのよる→祖母の存在 (祖母は亡くなっているためそこにはいない)
ばばあのマーチ→思い出の品(ばばあの手元に渡って「私」のところにはいなくなる)
入道雲が生まれるころ→藤井さん(亡くなっているためそこにはいない)
くろい穴→祖母の渋皮煮の作り方(最終的に他者に伝授して自分は二度と作らないことを気持ちとして誓う)
先を生く人→澪さんという存在(最終的に亡くなる)
※ もし先を生く人の主人公を澪さんと捉えると
先を生く人→正臣さん
になるのかもしれないです…
となるかなと思います。あくまでタイトルにどうリンクしているかを私個人の視点で考えたものなので,読者によってもそうは捉えられないのでは…となるものもあるかもしれません(-_-;)
全体を通して,読んでよかったなと思える作品でした! 少し不倫とか男女関係の話が多くはありますが,人生観について自分のもっていない,あるいはもっているけど言語化しづらいことをすべて詰め込んでくれているように感じました!
私は,
・入道雲が生まれるころ
・先を生く人
の2作が特に気に入っています。
以下でそれぞれの2作品で印象に残った登場人物の台詞を引用しておきたいと思います。
まず「入道雲が生まれるころ」で主人公の萌子の妹芽衣子が藤江さんのスケッチブックをもつことに対して萌子に向けて述べたものです。
「もしかしたら形としては,いつか捨てる日も来るかもしれん。でも,ほんとうに捨てるってことはできん。ずっと大事にしたい,抱えて生きたいものってどうやっても捨てられんのよ。心の中でかたちを変えて,自分と折り合いをつけて存在していくだけ。いま,教わったばかりでしょうが」
次に「先を生く人」で澪さんが加代や同居人の菜摘に対して述べた長文の台詞です。
「あなたたちは,可能性に溢れているのよ。恋も,友情も,夢も,何もかもがこれからなの。そして,どんなことだってできる。最初から諦めなければいけないことなんてない。絶望しないといけない障害なんてない。だから何ひとつ,憂うことはない。後悔しないように,それだけを忘れなければいい。もちろん,大変なことがたくさんあるでしょう。頑張ったからって成果がでないこともある。でも,どんなに辛いことや哀しいことがあったとしても,大丈夫。やっぱり憂うことはないの。だって,きっといつか,何もかもを穏やかに眺められる日が来る。ありのままを受け止めて,自分なりに頑張ったんだからいいじゃないって言える自分が,遠い未来にきっといる。私は後悔をたくさん残してしまったけど,たらればに思い悩んできたけれど,いまは,ここまで生き抜いてきた自分のことを褒めたい。あなたなりにやったじゃない,って思ってる。だから大丈夫よ。この私が保証する」
どのような流れでこの台詞が登場しているかはぜひ読んで確かめてみてくださいね!
この作品は細部まで読んでいくとかなり深読みができそうです。ちょっとした描写にどんな意味があるのか,など。
そこまで書く体力はなかったですが,自分の中の解釈として持っておきたいと思います。
細部を見ても楽しめ,全体を通しても感じとれるものが多い作品でした!
最後まで読んでいただきありがとうございました(*^-^*)