さて、いよいよ2011年。
この年はグラスワンダー系にとって大きな転機になりました。スクリーンヒーローがグラスワンダー産駒初の種牡馬として産駒を送り出した年です。この年からグラスワンダー産駒に加えてスクリーンヒーロー産駒が共存することになります。
そして、この種牡馬スクリーンヒーローがグラスワンダー系の未来を切り開くことになります。ジャパンカップを勝ったとはいえ、その後の成績が尻すぼみだったため、繁殖牝馬の数はそこそこでした。そんな状況だったのですが、この世代からG1馬が2頭誕生してしまいます。そのうちの一頭はG1を海外含め6勝、年度代表馬に選ばれるレベルの怪物です。
それでは2011年生まれ産駒のランキングを紹介していきます。
1位 モーリス 5億3625万円+3534万HK$
父スクリーンヒーロー 母メジロフランシス(母父カーネギー)
安田記念(G1)、マイルCS(G1)、香港マイル(G1)
チャンピオンズマイル(G1)、天皇賞秋(G1)、香港カップ(G1)
日本の獲得賞金だけなら2位なのですが、香港の賞金を加算すれば当然の1位です。ちなみに当時のレートは1HK$≒15~16円なので、香港での賞金額は5億円以上です。
さて、この説明不要の名馬をどう紹介したらよいのかw ということで、ちょっと違った切り口で書いてみたいと思います。
この馬のキャリアで一番異質なのは、『G1を6勝しているのに、強さの限界がわからないまま引退した』ということだと考えます。だって、4歳以降の負けたレース(2016安田記念、札幌記念)は原因がはっきりしていて力負けではないし、引退レースの香港カップが一番強かったわけですから。仮に6歳以降も現役を続行していたら、普通にジャパンカップは勝っていただろうと思いますし、欧州遠征していても(凱旋門賞はさすがにアレでも)勝っていたのでは?と思います。
この馬と競り合うことができたのは、2015年の香港マイルで対戦したエイブルフレンドただ一頭でしたね。香港のG1・4勝馬で2014-15年の香港年度代表馬、『香港の英雄』です。モーリスはこの馬に『相手の地元で』競り勝ったわけですから。どれだけ強かったんんだよ、という話です。
あまりに1600~2000で異常な強さを見せたためか、関係者の間で『モーリス産駒の適距離はマイル、長くても2000まで』みたいなイメージができてしまっている気がします。もしかしてジャックドール陣営もそうかもしれませんね(困)産駒たちには、ぜひ結果でその思い込みを覆してもらいたいと思います。
2位 ゴールドアクター 7億4324万円
父スクリーンヒーロー 母ヘイロンシン(母父キョウワアリシバ)
有馬記念(G1)、アルゼンチン共和国杯(G2)、日経賞(G2)
オールカマー(G2)
日本での獲得賞金ならこの馬が1位です。しかし、世代で複数のG1馬が出たのはこの世代が初ですね。グラス御大が達成できなかったことを初年度産駒で達成するとは、恐るべしスクリーンヒーロー。
2歳の11月に芝2000mでデビューし、初戦は0.6差の7着という結果。ただ、上り3Fは34.2という数字で、才能の片鱗を見せています。デビュー3戦目、3歳1月中山で勝ちあがり、続く500万下でも2戦連続2着に入ります。1勝馬ながら挑戦した青葉賞では勝ち馬から0.1秒差の4着と健闘します。
ここで休養を挟み、夏の北海道で復帰。500万下、1000万下と芝2600mのレースを連勝し、勢いを駆って挑戦した菊花賞では7番人気ながら3着と好走します。夏を越して成長していたゴールドアクターですが、この馬の成長はここでは止まりませんでした。
4歳の夏まで休養し、3歳時と同じく北海道で復帰。1000万下を勝利、秋は東京競馬場で準オープンを快勝、そしてグラス系の出世レース、アルゼンチン共和国杯に挑み、1番人気に応えて重賞初勝利を飾ります。
そして有馬記念。逃げるキタサンブラックを好位3番手で追走、直線で前を捉えて、後続の追撃を凌ぎ見事勝利します。キタサンブラックだけでなく、ゴールドシップやラブリーデイらG1馬を抑えきっての勝利でした。本格化からの連勝でG1まで上り詰める様は、父スクリーンヒーローそっくりでした。
5歳になり、春は日経賞を快勝して天皇賞春に挑むも12着と大敗。秋はオールカマーを快勝するも、続くジャパンカップ、有馬記念は4,3着。昨年先着したキタサンブラックに雪辱を許してしまいます。
6歳シーズンでは日経賞、天皇賞春ともに敗れたものの、宝塚記念では後方からの競馬で2着に食い込みました。しかし、秋シーズンは体調が整わず休養、翌年3戦するも大敗続きのため引退となりました。
通算成績は24戦9勝、うち重賞はG1有馬記念を含む4勝を挙げています。王道路線でゴールドシップやキタサンブラック、サトノダイヤモンドらと互角に戦っていることから、この馬は我々が思っている以上に強い馬なんだと思います。
そして、この馬も種牡馬になりました。これだけの戦績を挙げたのだから当然ではあるのですが、晩年の戦績が思わしくなかったためか、モーリスよりも繁殖牝馬の数、質ともに劣る状態です。そう考えると、絶頂期に引退したモーリス陣営の偉大さがよくわかります。もっとも、余程の大馬主でないとそんなことできないですけどね。
産駒は今年(2022年)デビューしています。地方では勝ち馬が出ていますが、JRAでは未だ勝利を挙げられていません(2022年11月19日現在)。そろそろ勝ってもらいたいところですね。
3位 ヨヨギマック 1億33万円
父スクリーンヒーロー 母ザペキンハート(母父サンデーウェル)
花園S(1600万下)
世代3位はこの馬。しかし、この世代の母馬は渋い血統ですね。とはいえ、母ザペキンハートは佐賀ダービー栄城賞の勝ち馬で、れっきとした重賞ウイナーです。
そんな母の血統もあって、デビュー2戦目からは一貫してダートで走っています。5戦目で未勝利を勝ち上がり、段々とクラス慣れしながら、4歳になってすぐに500万下を勝ちます。その後も段々とクラス慣れしながら力を付け、とうとう5歳秋にはオープン入りします。しかし、直後のベテルギウスSでは好走したものの、オープンでは苦戦が続き、7歳秋には南関東、次いで兵庫へと移籍することになります。
兵庫でも思ったような結果が出ず苦戦続きでしたが、8歳の春、佐賀競馬場の重賞『はがくれ大賞典』で4着に入ります。これで、この馬の獲得賞金が1億円を突破しました。そして、この年の末に引退が発表されました。
4位 プロトコル 9480万円
父スクリーンヒーロー 母ヴィーナスコロニー(母父Nureyev)
錦秋S(1600万下)
3歳2月にデビュー。ダート短距離を使われて5戦目に勝ち上がり。そして500万下を連勝。一時1000万下で壁に当たりますが、4歳時に1000万下、1600万下を勝利しオープン入りします。
しかし、ダート短距離路線は強い馬がたくさんいることもあり、入着はできてもなかなか勝利までは至りません。それでも、5歳時に欅Sで3着、7歳時には霜月Sで2着に入っています。挙げた5勝のうち東京コースで4勝だったので、余程東京コースが合っていたということでしょうね。
8歳までJRAで走り、9歳時は川崎に移籍しましたが、勝ち星を挙げるまでは至らず、ここで引退となりました。
5位 クライスマイル 8736万円
父スクリーンヒーロー 母リーフィーウッド(母父ホワイトマズル)
白嶺S(1600万下)
この馬は3歳4月に遅めのデビューでしたが、未勝利、500万下とダートで連勝。そして挑んだ新潟のレパードS(G3)で7番人気ながら2着に食い込みます。
一旦間隔を開けて挑んだOP戦では大敗、4歳夏に降級して1000万下を再び勝利、準オープンでも度々入着しますが、勝ちまでは至りません。7歳時に準オープンを勝利しますが、そこで故障が発覚し、引退となりました。
能力は高い馬でしたが、足元が弱く、また出遅れも多かったので、コンスタントに能力を出し切るのが難しかったのでしょうかね。
と、5位まで紹介しました。何と上位5頭全てがスクリーンヒーロー産駒という結果。いかにスクリーンヒーローの初年度産駒が粒ぞろいだったかがわかります。しかも、上位2頭の化け物は別にして、3~5位の馬たちは、いずれもダート路線でオープンまで勝ち上がっています。これはスクリーンヒーローのダート適性の高さによるものでしょう。明らかに親父よりもダートが得意な仔が多いです。スクリーンヒーロー自身、3歳秋にはダービーグランプリ出ようか、なんて検討していたくらいですから。
さて、ここまで5頭紹介しましたが、正直まだ書き足りないです。スクリーンヒーロー産駒はわかったけど、グラスワンダー産駒はどうした?とか、地方重賞で頑張ったあの馬はどうした?とか、モーリスにも劣らないはずだったあの素質馬は?とか。
ということで、続きは別記事にしたいと思います。いつになるかわかりませんが、気長にお待ちください🐴