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まつたけ秘帖

イケメン、男前限定のBL映画&ドラマ感想記!

 

 50年代のイギリス南部ブライトン。教師のマリオンは、恋人の警察官トムから博物館で働くパトリックを紹介される。トムはパトリックとの秘密の肉体関係に溺れていた…
 イギリスの人気アーティスト、ハリー・スタイルズがBL演技に挑戦!恥ずかしながら私、彼のことはあまり存じ上げなかったんですよ。人気アイドルグループ出身で、今はソロとして活躍、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」で俳優デビューもし話題になるなど、常に華やかな脚光を浴びてるハリーくんですが、彼の音楽活動は全然知らないし、「ダンケルク」もどこに出てたっけ?な存在感のなさだったし、ルックスもそんなにイケメンとは思えないし、私にとっては魅力がいまいち理解できない、歌手でも俳優でもなく派手なセレブって感じだったハリーくん。そんな彼が何か思うところがあったのか、本気モードで演技に挑んだのがこのBL映画です。世界的人気アーティストが本格的初主演作に選んだのがBLもの、というのが驚喜な選択。しかも男同士のラブシーンや全裸、好感も共感も抱けない役など、アイドル的スターにしてはリスキーとも言える果敢なチャレンジ。この作品でハリーのことがいい役者だと思えたし、それより何より、すごく可愛かった♡

 イケメンとか美男とかじゃないのですが、ちょっと猿顔なのが愛嬌があってキュート。たまにマーク・ウォールバーグに似て見えたのは私だけ?マーくんをソフトに可愛くした感じ?意外だったのは、すごく背が高くて体格ががっちりしてたこと。なので警察官の制服がよく似合っててカッコよかった!イギリスのおまわりさんの制服って、ちょっとおしゃれですよね~。実生活では超セレブなハリーですが、映画では素朴な庶民青年って感じをよく出してました。おまわりさん姿のシーンはそんなに多くなかったのが、ちょっと残念だったけど。

 そして、ハリーくんのBL!かなり頑張ってましたね~。男同士のディープキスや全裸セックスシーン、なかなか見ごたえありました。大胆だけど全然イヤらしくなく、甘く切ないラブシーンでした。攻める時も攻められる時もハリーくん、いい表情してました。ばっちり見せてるハリーの可愛いお尻も見どころ。禁断の愛にビクビク、でもワクワク。ないまぜな感情に揺れるハリーの若さあふれる、ピュアでどこか不器用なところもある演技が魅力的でした。

 BLといえば、やはり禁断と苦難。男女の恋愛と大して変わらないハッピーBLもいいけど、やっぱ過酷な運命と試練こそ、BLの醍醐味なんですよね~。同性愛は犯罪だった当時のイギリス、隠れキリシタンのように逢瀬を重ねるトムとパトリック、どんなに愛し合ってもそこに幸せな未来が重ならない、けど秘密が重ければ重いほど心も体も深く求め合うようになるのが切ない。現代なら、勇気さえあれば堂々と幸せになれたはずの二人。彼らが秘密の恋を続けるためにとった方法が、うう~ん、こいつらクズだなとさすがの私も思った。
  

 パトリックと同性愛関係にありながら、マリオンと交際し結婚するトム。マリオンのことが好きだったのは真実でしょうけど、結果的には彼女を騙して利用して社会的に祝福される“まっとうな既婚者”の立場を得て、それを隠れ蓑にしてパトリックとの情交を続けようとするなんてズルくて卑劣な二股、ゲス不倫でしょ。同性愛がバレないようにマリオンともセックスする時は苦痛そうなのに、パトリックとの時は身も心も歓喜の快楽、その差が残酷すぎる。マリオンが可哀想すぎ。バレれてないとタカをくくり、二人でイタリア旅行に行ってマリオンに絵葉書を送るとか無神経すぎ、いくら何でも女をバカにしすぎでしょ。マリオンへの仕打ちが非道すぎて、そのバチが当たったかのような悲惨な恋の終わりにも同情できませんでした。甘くて弱く可愛い男と違い、女はやっぱ辛くて強い、そして怖い。でもマリオンって聖女。結局は男たちを憎悪できず、年老いてからの彼女の決断も善い人すぎ。フツーなら即離婚&慰謝料請求、二度と顔も見たくない、ですよ。マリオンにはパトリックと、トムをめぐって嫉妬や憎しみの火花を散らしてほしかったです。

 パトリック役のデヴィッド・ドーソンは、カルロス・ゴーンを細くして端正にしたような顔?年下の男への愛執や独占欲、絶望に揺れるインテリ隠れゲイを痛ましく熱演していました。マリオン役のエマ・コリン、清楚で可愛いのでハリーとお似合いのカップルでした。老トム役がライナス・ローチ、老パトリック役がルパート・エヴェレットという配役は、「アナザー・カントリー」と「司祭」の彼らを知る映画ファンにとっては感涙ものです。二人ともお爺さんになったけど、美老人です。

 

 「ソン・ランの響き」
 80年代のベトナム、サイゴン。借金取りをしているユンは、取り立て先で大衆歌劇団の役者リンと出会い、舞台での彼の演技に魅了される。ユンに反感を抱いていたリンだったが、酒場でのトラブルから救ってくれたユンと過ごすうちに、彼の優しさと孤独を知って…
 このベトナムのBL映画、想定外の佳作でした!BLとはいっても、男同士が愛の言葉を口にするわけでもなく、キスやセックスをするわけでもなく、一夜の静かな語らいで魂が触れ合う関係を築くといった、美しくも切ない精神的なボーイズラブストーリーでした。イケメンたちが狂おしく激しく心も体も燃やすBLも好きですが、こういうソウルフルなBLも素敵ですね。同性愛的なことは何もしないとはいえ、男女間の恋愛とは違う、惹かれ合う男と男の間だからこそ生じる胸騒ぎやときめき、とまどいは友情を超えた、まごうことなきBLでした。そのすべてが優しく繊細、そして悲しくて、しばらく心に残るラストの余韻でした。

 ユンとリンの間に芽生えて育った感情、そして交わす言葉や視線、表情はぎこちなくも微笑ましく、離れがたい、ずっと一緒にいたい、また会いたいという想いが強まり高まっていく様子は、静謐だけど濃密。まさに運命の恋人に出会った二人でした。同じ魂を分け合うこの世でただ一人の人って、男と女とは限らないんですよね。ユンはゲイじゃない(情婦?とセックスしてたし)ので、もしあのようなラストにならなければきっと、リンへの深まるだけの愛に悩むけど迷うことなく愛し続けるんだろうな、とか。リンはゲイなのかな?と思わせるものがありましたが、だからこそユンとどんな関係になっていくのか、二人の未来を想像(妄想)して幸せな気分になりたかったのに、ああ…(涙)

 ハッピーエンドだったら、よくあるライトでスウィートなBLものになってしまったでしょうけど、それでもいいから二人には幸せになってほしかったです。ユンのキャラや境遇でフラグはめちゃくちゃ立ってましたが、やっぱりそうなるか…な悲劇に嘆息。でもやっぱ、BLは不幸や悲しみにくるまれてこそ絵になるんだよな~と、あらためて思いました。

 歌劇と重なる男と男の愛、アジア、といえば名作「さらば、わが愛 覇王別姫」を思い出します。覇王別姫のような激情的でドラマティックで破滅的な大作ではないけど、このベトナム映画も甘美な夢を見た後のような余韻を残すという点においては、覇王別姫に引けを取るものではありません。覇王別姫みたいなクレイジーラブよりも、こっちのクワイエットラヴのほうが心に沁みるかも。とにかくユンが魅力的!腐にとってはキャラも見た目も理想の男!

 イケメンとか美男子ではないけど、いい男なんですよ~。寡黙で無骨、怒らせらたヤバい凶暴さを秘めてるけど、悲しいほどに優しくもある男。強くて優しいヤクザって、腐は大好きですよね。絡んできた酔漢たちを叩きのめしたり、役者として才能があることを信じさせてくれたり、ソン・ラン(ベトナムの民謡楽器)を美しく奏でたり、リンにとっては(腐にとっても)まさに王子さまみたいでもあったユン。その淡々とした孤独も、リンの乙女心?をくすぐる魅力に。リンがちょっとツンデレなところも、腐には胸キュン。二人が仲良くなるきっかけがファミコン(懐かしい)!クールで無表情のユンが、リンと一緒にゲームしてる時は子どもみたいに楽しそうで可愛かった。ファミコンシーンだけでなく、ユンが弾くソン・ランに合わせてリンが歌うシーンや、朝の窓辺シーン(ユンが買ってきた飲み物、あれ何?)とかも、かなりジワるシーンでした。

 ユン役のリエン・ビン・ファットは、ちょっとキム・ミンジュン+松山ケンイチ、を野生的に色っぽくした感じ?東南アジアの男前って、艶っぽいですよね~。色っぽいシーンは皆無だけど、肉体美は何度か披露してます。バキバキすぎないムキムキすぎない、しなやかに引き締まった美しいカラダでした。リン役のアイザックは、ニコラス・ツェー+窪塚洋介、みたいな美男子でした。
 80年代のサイゴン(現ホーチミン)の市井の生活風景も、情緒があって興味深ったです。ゴミゴミしたスラム街みたいなところに住んでるユンですが、部屋はシンプルでこざっぱりしてて、置物とか観葉植物とかアジアンなテイストがなにげにおしゃれ。ユンとリンが食べてた屋台の麺も美味しそうでした。ベトナムの大衆歌劇カイルオンは、中国の京劇を親しみやすいミュージカルにした感じ?ユンが弾くソン・ランの、はかなく哀しい音色も心の琴線に触れる美しさです。

 

 「異人たち」
 ロンドンで暮らす脚本家のアダムは、かつて両親と住んでいた郊外の家に立ち寄る。そこで幼い頃に事故死した両親と再会したアダムは、両親に会うため旧家に通い始める。そんな中、同じマンションの住人ハリーと恋に落ちるアダムだったが…
 せつなかった!尊かった!期待通り、期待以上の佳作でした。古今東西いろんなBL映画を観てきたけど、正直そんなに胸に刺さる、胸に残るような作品には出会ったことないんですよね~。基本BL映画、BLドラマは、現実味のない絵空事なファンタジーだけど、カッコいいイケメンや男前を愛でることができればそれでいいかな、みたいな構えで観てるので、失望もしない代わりに感動とか衝撃もないのですが、ごくまれに奇跡のようなBL作品に出会うこともある。この作品がそれでした。深く優しく悲痛…という理想的なBLが描かれていました。

 この作品はBL映画というより、ゲイ映画と言ったほうがしっくりくるかも。フィクションの世界では、男性同士の恋愛もすっかり市民権を得ていて、最近のBLものは男女とそう変わらないような内容のものが多く、同性愛ゆえの苦悩や苦闘、悲しみなど存在しないハッピー&スウィートさ。それこそが魅力とも言えるのだけど、そんなのを観続けているうちに違和感というか疑問というか、ノーテンキで軽薄なBLってゲイを冒涜してるように思えてきて。おっさんずラブとか、私も最初は笑いながら楽しんでたのだけど、だんだん不愉快に。結局はゲイをイロモノ扱い、バカにしてるように思えて、パート2は途中リタイア。観たいのはもっと真摯な、でも気が滅入るような目を背けたくなるようなリアルなものではなく、現実の中でささやかに懸命に息づいている姿が美しい悲しい、と心動かされるBL…まさにこの映画がそれでした。

 死んだ両親と再会という設定はファンタジーですが、アダムとハリーのBLは現実的。ゲイってこんな風に惹かれ合って想いを伝え合って結ばれて、そして傷ついて悩むんだな~と、男女の恋愛ものとの違いをさりげなくも明確に描いているところが、さすがオープンゲイのアンドリュー・ヘイ監督ならでは。都会を舞台にしているのに静かで寂しい雰囲気なのも、ゲイの恋愛や人生をよく表していると思います。「さざなみ」や「ウィークエンド」など、ヘイ監督の感性がすごく好き。現実的なのに生々しくないところとか。ベタベタしい湿っぽさがなく、どこか乾いた悲哀の心地よさとか。ファンタジー部分も奇をてらった演出やシーンなど全然なく、アダムが幽霊?と会ってることも忘れそうになるほど。アダムの部屋の窓から臨むロンドンの夜と朝の風景の寂寥感ある美しさ、アダムとハリーがトンじゃうクラブのシーンのスタイリッシュさなど、今回も私の胸を衝く映像と演出でした。

 喪失の痛みと悲しみがテーマなのですが。私はそんなに愛されたことも愛したこともないので😅アダムとアダムと両親のエピソードには、そんなに感動はしませんでした。もし両親が死んでもそんなに会いたくないかも💦もし会ったら、お互い生きてる時によくも~!と不満不平ぶつけ合ってケンカになるだけだと思うし。この映画と違い、私の場合はコメディがホラーになっちゃいそうです。

 アダムとハリーの愛は、ほんとジワる!お互いを思いやる優しさ、分かち合う安らぎには、見てるほうも幸せな気分に。二人のゲイゆえの孤独、家族や社会との断絶と疎外感、ゲイの生きづらさも、最近の粗製乱造BLにはないリアルでした。このまま末永く…と願わずにいられない二人が、ああ…衝撃的で悲しい真実に、観る者は打ちのめされてしまうのですが。気づかないフリはできない劇中の不幸フラグ、悲しい伏線の回収に胸がしめつけられるラストでしたが、ある意味ハッピーエンドな余韻も。エンドクレジットへつながる演出が、これまた切ないまでにロマンティックで、冷血な私のハートを優しい五月雨のように潤したのでした。

 BLカップルを演じた二人の俳優が、とにかく素晴らしい!アダム役のアンドリュー・スコットは、ちょっと前にnetflixのドラマ「リプリー」を観たばかりなので、彼の地味にスゴい役者っぷりにあらためて感嘆。いろんな映画やドラマでお見掛けしますが、今まででいちばんいい男に見えたかも。これ見よがしじゃなく、かつ引き込んでくるという難易度の高い演技。特に別におかしなことはしないのに、ひょっとして心が…?と思わせる静かな不安定さ、不穏さが秀逸。カミングアウト俳優としても有名な彼、男と愛し合う姿がこれほどナチュラルな俳優もなかなかいません。もう青年じゃない大人の落ち着き、けどおっさんでもない繊細さも魅力的でした。それにしても。アダム、霊感強すぎでしょ。
 ハリー役のポール・メスカルが、か、可愛い!

 いや~ポール、ほんといい役者ですね~。あんなラヴリーでピュアな笑顔、演技でできるもんなんですね~。いきなりポールみたいな男が訪ねてきて、あの笑顔で一緒に飲まないか(=ヤらないか)と誘ってきたら、私なら断る自信ないわ~。断ったアダムの用心深さと自制心、あのとき部屋に入れていたら…と思うと泣けてきます。年上の男に甘える可愛さ、支える頼もしさ、風貌もキャラも一途で忠実な大型犬みたい。こんな彼氏ほしい!なポールasハリーでした。

 言動は明るいけど、たまに見せる暗い淵をのぞいているような目とか、泣くのをこらえているような表情とか、ハリーが深い傷と闇を心に抱えていることがわかるポールの演技は、秀作「アフターサン」の彼を彷彿とさせました。脱ぎっぷりのよさも相変わらず。ムキムキバキバキではなく、がっちりむっちりなガタイが素敵。ラブシーンではお尻も当然のように見せてます。デカくてきれいなケツがイイネ!ポールの相手を労わるような愛撫や腰の動きがムズキュンでした。セックスシーンはBLでは大切。リアルだけどイヤらしくない、情熱と優しさにあふれるアダムとハリーのセックスシーンも、BL映画では理想的なものでした。ポールみたいな若い俳優が日本にいないのが残念、と今回も思ったけど。日本の若い俳優だってみんな優秀、ただポールが特別で稀有なだけ、と思い至りもしました。

 アダムの両親役のジェイミー・ベルとクレア・フォイも好演。登場人物は全編ほぼ4人だけ、というシンプルさも今思えば驚異的。山田太一先生の小説「異人たちとの夏」をイギリスで大胆にBLアレンジしての映画化、ということも話題に。邦画版もあるみたいですが、ぜんぜん観る気が起きない。男女の話とかありえん~!なんて思ってしまって。ぜひBLバージョンで日本でリメイク希望!アダムは妻夫木聡、ハリーは池松壮亮でお願いします!

 アダム&ハリーforever…

 80年代初頭のアメリカ。フリーライターのネッドは、同じゲイの友人たちが次々と死に至る謎の病気の蔓延と、同性愛者への差別偏見を訴える活動を始める。そんな中、ネッドは雑誌記者のフェリックスと出会い、恋に落ちるが…
 BLドラマ史上、屈指の佳作!冷血人間の私が、目頭を熱くしてしまった。物語も場面も演技も、衝撃的で感動的でした。

 エイズ…突然 人類に襲いかかってきた、恐ろしい災い。発症し亡くなるのは同性愛者がほとんどだったことから、ゲイの病気と思い込まれていました。かくゆう私も、小さい頃はそんな世間一般の先入観や偏見を、当然のように受け止めてたし。このドラマを観て怖いな~と戦慄したのは、もちろん死の病であるHIVの恐怖にもですが 同性愛者じゃない私らには関係ない、という無知・無関心の残酷さと罪深さにです。このドラマでも、エイズが蔓延して大変なことになってるのに、なかなか動いてくれない政府の冷淡さには、エイズはゲイを根絶するための政府の陰謀!という説を信じてしまいそうに。過激で暴力的なゲイへの差別偏見は、何だか狂気的でもあって。自分たちとは違う!普通なのは正しいのは自分たち!と、価値観や嗜好が異なる人たちを躍起になって排除しようとする人たちのほうが、いつになっても圧倒的に多い世の中なんですよね…でも、それも決して理解できないことじゃない、という事実も私を暗澹とさせます。とにかく、病気にしてもテロにしても、無知無関心でいてはいけないと痛感。

 死に至るまでの精神的肉体的苦悩・苦痛が、リアルにシビアに描かれていています。目を覆いたくなるような悲痛なシーンもあって、神さまは人間に何て非道い試練を与えるんだろう…と、胸が苦しくなってしまいました。男同士が自由に愛し合うことは、罰を与えられるほど罪深いことなのでしょうか。確かに、あまりにも無軌道で放埓、無節操なセックスライフは、神をも畏れぬ人間の傲慢さのひとつなのかも、とは思いましたが。死んでいくのが若くて美しい男たち、というのが無残。

 HIV患者への無慈悲すぎる対応も、悲惨すぎて神も仏もありません。飛行機搭乗拒否とか(でも、あんな状態で飛行機に乗せようとするのも???でしたが…)死後の臨床検査も拒否、ゴミのように袋に入れられて持ち帰りさせる病院とか、にわかには信じがたい非情さ。自分の愛する人が同じ目にあったら、とは思えない人が多いから、世の中いまだに醜い酷い差別がなくならないんですね。

 エイズ啓蒙運動に身を投じるネッドと仲間たちの葛藤や対立は、どっちの言い分も立場も解かるので、ゲイ同士をも争わせてしまう社会の複雑さ、冷酷さに絶望せずにはいられません。何も隠さず恐れず、どんどん前へ出て闘おうとするネッドと、家族や職場のことを考えて慎重なりたい他のメンバーと。カミングアウトって、そんな簡単なことじゃないですよね。それに、ネッドみたいに強い人ばかりじゃない。コソコソしてるからダメなんだ!という彼の姿勢は過激で思慮に欠けてるのか。なるべく反感を買わぬよう、社会におもねるようにして保身も重視する他のメンバーは、臆病で卑屈なのか。誇り高く生きるためには勇気が必要、でも社会を生きるためには妥協も打算も不可欠…自分に恥じないように生きることって、難しい…

 深刻な社会派ドラマでもあるけど、私は美しいラブストーリーの部分に深い感銘を受けました。私が腐りきった腐、というのも感動の大きな要因ですが。とにかくネッドとフェリックスの愛が、普段はゴビ砂漠な私の心に切ない雨を降らせてくれました。過酷な運命と対峙する二人ですが、その苦痛と苦悩さえ強い深い愛の証のようで、羨ましくもなりました。私などこの先、重い病にかかることもなく平和に健康に長寿をまっとうするだろうけど、二人のような愛にめぐりあうこともない。あんな風に誰かに愛され誰かを愛することができるのなら、命を引き換えにしてもいいとさえ思ってしまいました。もう二度と彼のような人とは出会えない、これ以上誰かを愛せない、と分かっているからこそ、二人の愛が悲しく美しかった。愛なんかない夫婦が末永く添い遂げてしまうのに、あれほど愛し合ってた二人が引き裂かれてしまうなんて…

 発症するまでの二人が、本当に幸せそうなんですよ。だからこそ、残酷すぎる運命に涙。二人の恋愛は、男同士というだけで、フツーのラブラブなカップルと何ら変わりはない。セックスシーンも、ただ単に性欲を満たし合ってるのではなく、文字通りのメイクラブ、愛の交歓って感じなんです。フェリックスに一目惚れしたネッドが、思わず真顔で『キュートだね』と言うシーンとか、早朝の埠頭でネッドがフェリックスにプロポーズするシーンとか、かなり胸キュンでした。幸せの密度が濃かっただけ、二人に襲いかかる運命が痛ましくて…病魔に蝕まれたフェリックスを決して見捨てず、献身的に支えるネッドの無償の愛が、崇高すぎて。二人の別れのシーンは悲しすぎるけど、誰かを愛しきったという幸福にも満ちていたようで、私はやはり羨望を覚えてしまいました。

 俳優たちの見事なアンサンブル演技は、まさに圧倒的で感動的!もうね、ちょっと変わった役したぐらいで演技派気取りな日本の俳優女優には、絶対できない果敢すぎるパフォーマンスなのです。ハリウッドのスターって、スゴいわ~。すごいギャラもらってるだけの仕事しますわ。
 ネッド役は、「アベンジャーズ」シリーズでもお馴染み、「フォックスキャッチャー」ではオスカーにノミネートされたのも記憶に新しいマーク・ラファロ。濃くて男くさいけど、すごく優しそう。人柄のよさが全身から滲み出てます。圧巻の大熱演でしたが、フェリックスとの別れのシーンの、あの泣き顔には胸を本当に衝かれました。

 

 フェリックス役は、TVドラマ「ホワイトカラー」で人気のイケメン、マット・ボマー。私生活でもゲイであることをカミングアウトしているマットが、これまた渾身の大熱演。ルックスだけじゃなく、果敢な役者魂も備えていることを証明しています。やせ衰え、どんどん崩壊していく彼の美しい顔と肉体が、とにかく凄絶で驚嘆。役作り、大変だったことでしょう。マーク・ラファロとのラブシーンは、とにかく大胆で甘美。それにしても二人とも、すごい脱ぎっぷりの良さでした。ネッドの元軍人のゲイ友ブルース役、テイラー・キッチュのイケメンぶりも特筆に値するでしょう。ブロンドの髪とシャープな顔立ち、ゴリマッチョ肉体美が素敵でした。
 車椅子の女医エマ役は、大物女優ジュリア・ロバーツ。

 プリティ・ウーマンも遠い昔、すっかりBBAになったジュリロバさんですが、こういう男なんか屁とも思ってない、ギスギスしたヒステリーおばさん役が、すごく似合う女優になりましたね。「8月の家族たち」もそうでしたが、彼女の激怒演技って大迫力で超怖い。さぞや共演者やスタッフを戦々恐々とさせてるんだろうな。
 
 

 

 カリブ海の島国トリニダード・トバゴ。成績優秀で容姿にも恵まれた高校生グレゴリーは、家族や学校から将来を嘱望されていた。そんな中、裕福な実業家ジェームズと親しくなるグレゴリーだったが…
 トリニダード・トバゴ、この映画で初めて知りました。人気リゾート地のような華やかで人工的なところがなく、風景も人々の暮らしも現代社会に汚されておらず、その素朴で原始的な美しさに魅了されました。行ってみたい!公用語が英語なので、短期語学留学を兼ねて半年ほど滞在してみたいものです。日本のように何でもできる、何でもそろってる便利さはないけど、生きるために必要なものは欠けてないし、不必要で有害なものがないシンプルライフが送れそう。本当に高いQOLって、トリニダード・トバゴのような国で得られそうな気がします。

 そんな美しく静かな南の島でも、BLは繰り広げられるのです。トロピカルな舞台だと、BLも明るくハッピースウィートなものになりそうですが、この映画は暗くて悲劇的なBLです。ラブコメ調のBLより、私はそっちのほうが好み。BLにはどうしても、悲しみと苦しみを求めてしまうんですよね~。イケメンDKとハイスペック熟年のBLなんて、シクラメンのように甘い禁断のかほりしかしません。

 グレゴリーが、ほんと見た目もキャラも可愛いんですよ。あどけなさの残る童顔とセンシュアルな美しい肉体がアンビヴァレントな魅力に。見た目がもう他の島民とは違うんですよ。まさに鶏群の一鶴、みたいな。美しいだけでなく、頭も性格もいいという欠点のなさ。自分の美点に驕らず優しく真面目で、家族思いなところも痛ましいほどけなげな少年。グレゴリーが小さな南の島ではなく、ニューヨークとかロンドンで生まれ育ってたら、もっと楽な人生を歩めただろうにと思わずにはいられませんでした。神さまって残酷だわ。

 美しくて才能があって、優しくて繊細なグレゴリーのような若いゲイにとっては、トリニダード・トバゴのような小さな島は監獄のような場所です。家族や友だち、島民はみんな彼を愛してくれる善き人たちだけど、無知なので誰もグレゴリーの苦悩や閉塞感に気づかない。カミングアウトどころか、ゲイであることを自認さえできず鬱屈を抱えるグレゴリーが悲痛。外国帰りで教養があり金持ちのジェームズは、彼にとってやっと出会えた理解者のはずだったのに、ジェームズにはもちろん下心が。誘惑されて初めてのセックス体験をするのですが、それがまたデリケートなグレゴリーを追い詰めて、苦すぎる顛末に。環境も価値観も同性愛を許容していない、多様性?何それ?な小さく狭い世界の現実がシビアでした。

 グレゴリーにガチ恋、執着してつきまとう中年ストーカーなジェームズがヤバい、けど報われない恋が切なかったです。既婚者のジェームズなので、何も知らない奥さんと子どもも可哀想。同性愛には何の罪もないけど、不倫はやっぱマズいですよね~。
 グレゴリー役のペトリス・ジョーンズは、イギリスの俳優だとか。極小ベビーフェイスが可愛い。劇中ほとんど上半身裸だったような。おじさんゲイが溺れて執着するのも理解できる肉体美でした。1回だけあるセックスシーンは大したことないけど、若者らしい激しいがっつき方が素敵でした。ジェームズ役の俳優はブサイクではないけど、もうちょっと男前熟年ならmuch betterだったかも。島の伝統の祭りやダンスも、エキゾティックで面白かったです。森林や滝など、自然の風景も美しかったです。ほんと行ってみたいわトリニダード・トバゴ!