昨日書いたように、『日本共産党の百年』は、「(「安保廃棄以前の段階」を第一段階とした)大会決議の内容は、2004年の綱領改定によって党綱領に明記されました」としている。では、その綱領の規定は、どうなっているのだろうか。

 

「自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。」

 

 読み方によっては、これは自衛隊の段階的解消だけを述べたもので、「安保廃棄以前の段階」など認めていないようにも見える。しかし、私は、『シン・日本共産党宣言』などのなかで、2000年の22大会決議にある3段階論は、この綱領規定に結実していると主張してきた。しかし党幹部の誰も、そういう言い方はしてこなかった。ところが、『日本共産党の百年』が私と同じ見地だと明確に認めたので、びっくりしたのが正直なところだった。

 

 一方、山下報告には何も出てこないが、志位氏はいくつかの箇所で、安保廃棄について段階論はとらないと明確に述べている。志位氏によれば、「安保廃棄以前の段階」を設けるのは段階論ではなく、安保廃棄と安保を前提とした改良の取り組みの2つを同時に進めるものであって、これに「二重の取り組み」という名称を与えている(『新・綱領教室』)。

 

「異常な対米従属の打破のためには、緊急の課題での一致点での共同に取り組みつつ、日米安保条約の廃棄を求める国民的多数派をつくるという、『二重の取り組み』が大切」

「『二重の取り組み』とは、念のために言いますと、あくまでも『二重の取り組み』であって、安保条約の『段階的解消』論──『安保条約を解消するためにはあ、いくつかの段階=中間的措置が必要だ』──という立場では決してありません」

 

 61年綱領の制定以来、ずっと「安保は諸悪の根源」路線だったので、この種の言い訳が必要なこ事情はあるだろう。しかし、2000年の大会決議で安保条約を維持した段階での自衛隊活用を打ち出したのは、自衛隊への認識だけでなく安保条約への認識をも大幅に変えること抜きにはあり得なかった。

 

 現綱領も、旧綱領と同じく、自衛隊を対米従属の軍隊だと位置づけている。もし、「安保は諸悪の根源」という認識のままなら、安保下の自衛隊も世界征服を企むアメリカのいうがままに動く自衛隊であり、自衛隊も世界征服のための軍隊であって、それを活用するなどという発想は生まれようがなかったのである。

 

 山下報告は、再審査請求書で私が指摘した綱領の大きな変化には、まったく口をつぐんだままである。綱領にはあまり関心がないんだろうね。

 

 ただ、アメリカ帝国主義と安保条約の位置づけが変わったとしても、安保条約がゆくゆくはなくさなければならない存在であることは事実である。だから安保条約の問題点を現時点でも強調するのは当然である。けれども、安保条約下でのさまざまな改革が可能だという見地も、おおいに強調されなければならない。

 

 これって、資本主義がゆくゆくはなくさなければならない存在であるけれども、だから社会主義の意義を強調するけれども、共産党が実際には資本主義の枠内での民主的改革を進めているのと、ほぼ同じ関係である。実際には段階論に他ならないのである。「二重の取り組み」と呼んだりはしない。(続)