北朝鮮が国民を「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」という3つの成分に分けているという話は、いわゆる反共本、反北朝鮮本に出て来るのではない。出所は国連の文書である。

 

 国連人権委員会(06年からは人権理事会に改組)は、04年以来、北朝鮮をかつての南アフリカやチリと同様、「特別手続」という人権監視システムの対象国と位置づけた。特別報告者一人を指名して、人権状況を調査させ、毎年、報告させるのである。13年、人権理事会はそれでは足りないとして、「北朝鮮の人権状況に関する国連調査委員会」を設置し、14年に詳細な報告書が提出された(「朝鮮民主主義人民共和国における人権状況に関する国連調査委員会報告書」)。外務省が邦訳しているので、関心があれば目を通してほしい。私も『北朝鮮問題のジレンマを「戦略的虚構」で乗り越える』という本で解説を行っている。

 

 「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」が北朝鮮指導部にとってどう位置づけられているかは、その名称を見ただけで理解できるだろう。ただし、いったんは「核心階層」に属すことができても、党・国家への忠誠が疑われると、すぐに下の階層に追いやられるそうである。日本共産党の場合はどうなるのだろうか。

 

 この「成分制度」は、北朝鮮の建国以来のものではない。開始されたのは57年5月30日、朝鮮労働党が「反革命分子との戦いの全人民・全党的運動への転換について」という決議を採択してからとのことだ。日本共産党が私のことを「反革命」と位置づけたら、結局、党員を3分割することになったわけで、経緯まで似通っている。

 

 どの階層に属するかは、もともとの出自が大きい。金日成とゲリラ戦争をいっしょに戦ったら「核心」で、富裕層は「敵対」で、その中間が「動揺」みたいな分け方だ。しかし、現在の思想状況も常にチェックされる。国連報告書から簡単に引用する。

 

「国家当局は、17歳以上の市民全員について包括的な住民台帳を確立している。この台帳には、家系図・思想的な健全性と政治的な忠誠心などを含む経歴が記載されており、これらは、職場における行動などさまざまな状況での当人の振る舞いや、毎週行われる『生活総括(告白と自己批判)』を通じて確認されている。収録される情報には、スキルや才能、健康状態、金日成・金正日の肖像画の煤払いや金親子の廟への礼拝、革命史の学習の継続、建設プロジェクトにおける労働実践の際に示す熱意などが含まれている。」

 

 日本の場合、志位氏は間違いを犯したことがなく党首としてふさわしいというキャンペーンは行われ、党員は賛同を求められるが、別に志位氏の肖像画に礼拝しないといけないわけではない。北朝鮮が革命史の学習を強要され、日本でも『日本共産党の百年』の学習を求められるが、日本の場合、その結果が党員台帳に記録されるわけではない(たぶん)。

 

 だから、国民・党員を3つに分けること、その分け方、成立の経緯は似ているが、私だって同じものだとは言わない。その程度の理性は持ち合わせている。

 

 しかし、土方文書と常任幹部会議事録をもって、いま全国で、党大会への代議員選出をめぐって、党員のあぶりだしみたいなことが開始されているのは、ちらほらと確認できる。党員を忠誠度で分類するという発想は、結局、自由と人権が確立する以前の、そういう前近代的なやり方を生みだして行かざるを得ないのだ。(続)