再審査請求書は長いので、サマリーのようなものが必要だというご意見がありました。確かにそういう面はありますが、一方、サマリーを提出すると、それだけが配布されて全体を代議員に見せないという対応も考えられたので、再審査請求書の最後に、あとがきのような形で、「代議員のみなさんへの心からの訴え」を加えました。以下、ご覧ください。

 その前に、本日午後5時より、碓井敏正さんと「民主集中制を考える」をテーマに対談を行います。YouTubeでライブ中継しますので、是非、ご視聴ください。

 

代議員のみなさんへの心からの訴え

 

 みなさんがこの再審査請求書をどこでどのように読んでおられるのか、あるいは見ることすらできなかったのか、現時点での私には知るよしもありません。それでも、請求書を閉じるに当たり、目を通して頂いていることを期待して、心の内をまとめてお伝えしたいと思います。

 

 私の除名処分は明確な間違いです。私は、二三年一月に刊行した『シン・日本共産党宣言』からこの再審査請求書に至るあらゆる文書で明らかにしている通り、現行の党綱領と規約を全面的に支持しています。

 除名処分の理由の一つとして、私が分派を形成したことが挙げられましたが、分派とは、かつて宮本顕治氏がレーニンを引用しながら強調したように、「特定の政綱」つまり党の綱領に反する別の政治綱領を持ち、その実現のために党に隠れて閉鎖的に動くグループのことです。党の綱領を支持し、その全面的な実現を願う私には、そもそも分派などつくる理由がありませんし、分派の相手とされた人物との関係は、閉鎖的のそしりを受けないよう、私が堂々とメディアに公表したものであって、その視点からも分派と呼べるようなものではありません。

 しかも、一九五八年に制定された旧規約では、第二条「党員の義務」の一つとして、「分派活動をおこなうなどの党を破壊する行為はしてはならない」(第一項)とされていましたが、現行規約の「党員の権利と義務」(第五条)の中には、そもそも「分派」という用語すら存在していません。民主集中制の原則を五つにわたって述べた第三条の一つとして、「党内に派閥・分派はつくらない」(四項)と規定されているだけです。義務に違反することが処分の対象となるのは当然ですが、義務でないものに同じ扱いをすることは適切ではないと考えます。

 

 私の安保条約、自衛隊に関する立場が党の綱領に反することも、除名の理由とされました。しかし私は、二〇〇〇年の党大会決定と二〇〇四年に採択された新綱領で、安保条約と自衛隊を即時にではなく段階的になくしていく展望が打ち出されたことを歓迎する立場です。その立場から、この間、志位和夫委員長のもとで党が歩んできた道筋を支持しています。

 二〇一五年の新安保法制成立を受け、野党の国民連合政府構想を打ち出したあと、志位氏はかつての自衛隊活用論を復権させ、日本が侵略された際の安保条約第五条の発動を認め、共産党が入る政権では自衛隊は合憲とみなすと踏み込んでいきました。苦渋の決断だと思いましたが、党幹部のなかでは他に誰もその決断を具体化する動きが見えないなかで、私なりに悩みながら打ち出したのが「核抑止抜きの専守防衛」という見地でした。

 志位氏と私の提起は、自衛隊活用論の点ではほぼ同じです。安保条約第五条の発動問題では、志位氏がとくに条件を付けないでいるのに対して、私が核抑止力の発動を許していない点では異なります。自衛隊合憲論をめぐっては、志位氏は政権としては合憲、党としては違憲という立場ですが、私は党としても合憲とするが、党員の思想信条は縛らないという立場なので、志位氏よりは踏み込んでいると考えます。

 私の提起に賛否が渦巻くのは仕方のないことです。というよりは、安全保障政策をどうするかが野党共闘と共産党の将来にとって大事な問題になっているのですから、私の提起を批判の材料にして大いに議論が巻き起こることを期待します。けれども、志位氏の一連の提起は党首にふさわしいとして歓迎されるが、私の問題提起は除名に値するというのでは、あまりにも整合性を欠いたものだと指摘せざるを得ません。

 

 私が党首公選論を党中央に至る機関に提起せず、外部のメディアで公表したことも、規約に反するとして処分の理由とされています。これについては、率直に言わせてもらいますが、党中央を初めとする党機関が規約への理解を欠いていると思います。

 旧規約は、「党の内部問題は、党内で解決し、党外にもちだしてはならない」ことを、党員の義務(第二条)としていました。しかし、現規約(第五条)では、「党の内部問題は、内部で解決する」(八項)と変化し、「党外にもちだしてはならない」の部分は削除されました。一方、現規約は、「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(五項)として、外部に公表してはならないことを「党の決定に反する意見」に限定しています。

 では党首公選論は党の決定に反する意見でしょうか。現在でこそ党首公選論は間違いであるとの議論が「赤旗」にあふれていますが、私が問題を提起した二三年一月の時点で、そういう主張を「党の決定」とみなしていた党員は一人もいなかったはずです。それまで党大会や中央委員会総会の決定で党首公選論が批判されたことは一度もないのですから当然です。ですから私は、「党の決定に反する意見」を公表したわけではなく、規約上の義務に違反してはいません。

 それにしても、私が異論を持っていたのなら、「中央委員会にいたるどの機関にたいしても、質問し、意見をのべ、回答をもとめることができる」(第五条六項)という考え方を重視すべきだったという意見はあるでしょう。私の所属する党支部は、党首辞任論なども自由に議論できるところであり、私も党首公選論などは提起していました。一方、機関に対して意見を述べなかったのは、いま引用した規約でも明白なように、それが党員の「権利」であって「義務」ではないからです。義務はルールですので破れば処分の対象となりますが、権利について言えば、それを行使することは望ましかったかもしれませんが、権利を放棄したからといって処分したのは、権利と義務に関する常識的な法理に反すると考えます。

 

 私が除名された直後、いくつかのメディアが「異論を許さぬ共産党」などと報道し、「赤旗」などが反論を加えました。一方、私の除名理由の中には、「(私が)わが党規約が『異論を許さない』ものであるかのように、事実をまったく歪めて攻撃している」という文言があります。また九中総の結語は、「いまの党攻撃が、権力、メディアと一体となった大掛かりな党攻撃である」と述べるなど、「異論を許さぬ共産党」批判が私と権力、メディアの結託で行われているかのように宣伝しています。

 しかし、私は一度たりとも、「異論を許さぬ共産党」などと言ったことはありません。逆に、『シン・日本共産党宣言』では、党内に異論が存在し、自由に議論されている事実を豊富に描いたつもりです。そういう共産党の現実を国民に知らせることが、共産党と国民の関係を近づけると考えたからです。

 また私は、共産党を退職後、さまざまな本を執筆し、異論を公表してきました。『改憲的護憲論』刊行の際は、「こんなことを書いたら除名されるぞ」と忠告を受けましたが、そんな心の狭い党ではありませんでした。党本部勤務員や研究者の党員からも、「松竹さんがいるから、自由な党だと国民が思ってくれる」と言われたこともあります。

 共産党は本来、そういう党なのです。そういう党であることが望ましいのです。けれども、私を除名した結果、本当に「異論を許さぬ共産党」という評価を受けるようになってしまいました。それを覆すには、私の除名を撤回するしかないと思います。今回の再審査は、党がみずからそれを行える最後の機会となります。

 

 もし除名が撤回されて私が復党し、党首公選が実施されるなら、私は立候補します。何よりも訴えたいことは、現在の綱領、規約を全面的に実施する党運営の確立です。

 綱領と大会決定の通り、第一段階は安保条約と自衛隊を維持しつつ改革する、第二段階は安保条約を廃棄して平和なアジアをつくっていく、第三段階は自衛隊の解消に向かうという立場から、政策と方針を豊かなものにしていきます。どんな世論調査でも、自衛隊解消を支持する国民が一パーセント程度しかいない現状のもとで、この立場は、「一三〇%の党づくり」にも良い影響を与えるはずです。

 民主集中制は規約通りに運用します。「党の意思決定は、民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める」(第三条一項)ということは、党内に少数者が存在することを前提とした規定です。民主主義とは少数意見の尊重であることは誰もが知っており、党内でもそれを尊重した運営をすべきです。

 綱領に反対するグループの形成は分派であり許されません。しかし、党員の活発な議論こそが、党員の自発性を引き出し、正確な方針を編み出す生命力の根源であり、支部を超えて党内の議論が活発になるようにします。

 「赤旗」を党と国民がともに要求を叶える「至宝」としてネット化します。現行の電子版のような形態ではなく、関連記事表示機能などを駆使し、現代にふさわしい機関紙としていきます。

 公安調査庁は共産党が「敵の出方論」を維持していることを、破防法調査適用団体とする根拠としています。党はこの用語は使わないとしていますが(内容は維持するということです)、現綱領は旧綱領と異なり、「敵」という用語自体を廃止したにとどまらず、「敵の出方」に沿って党の対応を変えるという考え方自体を廃止したものと思います。その点を明確にし、公安調査庁と交渉して、共産党を適用団体から外すことを強く求めます。

 

 代議員のみなさんの公正な判断を期待します。