〈いよいよ最終回です。これをもって除名問題の再審査請求書に関連する連載は終わり、明日、党中央宛てに投函することとします。本日、全体を見直しつつ、要約版が必要だというご意見もふまえて、要約ではありませんが、最後の部分の代議員への短い訴えみたいなものも加えます。YouTubeチャンネル登録者も当初の目標だった1000名を超え、予定通りに進んでいます。今後ともよろしくお願いします。〉

 

●自衛隊のクーデターの危険に無警戒ではいけないか

 

 それとも、現在の党指導部は、共産党が政権に就く以前にも、自衛隊や警察が共産党に暴力を持って襲いかかってくると、いまでも考えているのでしょうか。それならば、「敵の出方論」という用語を使わないという手法をとるのではなく、堂々とその立場を明確にすべきだと思います。

 

 実際、私にしたところで、共産党がじつはそう考えているとして、そういう立場が完全に無根拠だと言い切るつもりはありません。例えば、いま話題の自衛隊の闇組織「別班」を扱った石井暁氏(共同通信記者)の著作には、著者と陸上自衛隊将官との以下のようなやりとりが出てきます(『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)。一九九六年時点でのものです。

 

「酔った勢いもあり、自衛隊幹部を困らせるような微妙な質問を私は発した。

 『日本共産党がどんな形にしろ、政権を取ったら自衛隊はどうしますか』

 すると、元将官はかっと眼を見開いて険しい表情を見せると、こう言い放ったのだ。

 『躊躇なくクーデターを起こします』

 酔った席での冗談とは到底受け取れなかった。」

 

 すでに紹介した防衛研究所の研究員と同じ立場です。自衛隊と防衛庁の内部でそういう考えの人が皆無ではないことが伺えます。

 

 けれども、個人の見解をもってして、自衛隊そのものを本質づけるのは正しくありません。そのことをリアルに理解したのは、泥憲和氏(故人、共産党員)という元自衛官のお話を伺ったときです。彼は中学校を卒業して自衛隊に入り、数年で除隊した方なのですが、亡くなったあとに刊行された『泥憲和全集──「行動する思想」の記録』に著名人から寄せられたエッセイを見ると、泥さんの講演で紹介されて感銘した言葉として、憲法学者の樋口陽一氏と元防衛官僚の柳澤協二氏が同じことを紹介しています。自衛官として駐屯地にいたとき、まわりを自衛隊に反対するデモ隊の人びとに囲まれたのですが、その際、教官が発した言葉です。

 

「あの人たちが、あのように自由に意見を表明することができるような国を守ることが、我々自衛隊の使命だ。」

 

 自衛隊反対でデモ行進することのできる日本を守る、それが自衛隊の使命だ──。自衛隊の中では、こう言える教官がいて、隊員を教育しているのです。

 

 一部の部隊だけでそういう教育がされているわけではありません。防衛大学校の一期生であり、自衛隊のトップである統合幕僚会議議長を務めた佐久間一氏は、退官の日(一九九三年七月一日)、次のように語ったとされます(月刊誌「Wedge」二〇一九年五月号での勝股秀道氏の連載「国防の盲点」より)。

 

「自衛隊の任務の高さ、尊さは、我々を無視し、あるいは非難する人々も含めたすべての日本人の平和と安全を守ることにある。」

 

 自衛隊内の教育が落ち度のないものだと言うつもりはありません。問題のある考え方の人が個々にしか存在しない場合も、さまざまな危険が生じる場合もあります。しかし、大事なことは、自衛隊のトップには佐久間氏のような人が就いていて、現場での教育もされているということです。それならば、そういう要素を伸ばしていくことにこそ、共産党は努力を傾けるべきです。そうやって自衛隊との関係を良好なものにすることが、問題を起こさないためにも必要でしょう。それを無視して、自衛隊は共産党に対してクーデターを起こす集団だと捉えて対応していたら、自衛隊と共産党の距離はどんどん広がっていくばかりです。私自身、自衛隊を活かす会の事務局長としていろいろな自衛官に接することになり、自衛隊に対する見方が深まりましたが、共産党にもそういう体験をしてほしいと思います。

 

 もちろん、権力への警戒心一般は、常に抱いておかなければなりません。しかしそれは、権力が共産党を貶めるためのさまざまなイデオロギー攻撃をすることで、共産党を国民から孤立させることへの警戒心であるべきです。それに対して共産党がやるべきことは、自衛隊のクーデターの危険を内心に抱いて備えをしておくというようなことではなく、理論と政策をきたえて共産党への支持を広げるとともに、国民に親しまれる存在になり、何かあったときも国民が共産党を守ってくれるという関係を築いておくことでしょう。異論を外で述べた党員をただちに除名するようなやり方は、そういうものとは正反対であって、共産党と国民の関係を大きく傷つけるものです。

 

 では、革命が進行する過程で、本当に何らかの勢力が共産党に暴力的に襲いかかってきたら、どう対応するのか。その答えは、議会を通じて変革を追求する普通の政党らしく、「警察に対して取り締まりを要求する」というものになるでしょう。

 

 いずれにせよ、現在の綱領には、「敵の出方論」が通用する余地はありません。しかし、現在の指導部には、その立場を廃止する決断はできないだろうと思います。すでに指摘したように、「敵の出方論」という表現は使わない(中身は変わらない)という見解は、二八回大会三中総で「全会一致」で決まったものだからです。現在の指導部には、いまさら「私は違う見解でした」と言える人は一人もいません。

 

 だから、共産党を破防法調査対象から外したいと望む党員は、是非、来年一月の党大会に代議員として参加し、私の除名に反対する意思表示をしてほしいのです。そして、党首公選を望む声をあげてほしいのです。(了)