二、安保・自衛隊問題での私の主張は旧綱領に反するが新綱領には合致する

1、志位委員長の安保・自衛隊問題の努力を実らせることが除名になる不思議

●志位氏による自衛隊活用論と日米安保条約第五条発動論の提起

●自衛隊合憲論でも志位氏は大胆に踏み込んだ

●志位氏と私の提唱の異なる点は除名に値するほどのものか

●再審査で除名を正当化するなら志位氏の反省と著作の撤回が不可欠となる

2、新綱領の安全保障の考え方は、旧綱領とは本質的に異なっている

●志位氏の踏み込みには綱領上の根拠があった

●「平和の社会主義を侵略するための安保条約」は成り立たなくなった

●帝国主義に対する見方が旧綱領と現綱領では根本的に異なる

●新綱領にもとづく創意的な発展が求められている

 

2、新綱領の安全保障の考え方は、旧綱領とは本質的に異なっている

 

 志位氏に対して厳しいことを書きましたが、それは私の本意ではありません。志位氏には、『日本共産党の百年』のように過去の発言を隠すのではなく、堂々と表明してほしいと願っています。党首公選を実施して議論することも含め、安保・自衛隊政策をめぐる議論をもっと党内で活発に行ってほしいと思っています。

 

 なぜなら、安保・自衛隊政策をめぐる志位氏の二〇一五年以来の一連の言明は、旧綱領のもとではあり得なかったものですが、現在の綱領には合致した考え方だからであり、私の発言と同様、反省や自己批判が求められる性格のものではないからです。その考え方を整理し、発展させていくことが、何十年も続く党勢の後退に歯止めをかけ、党の前進を切り開いていく上で不可欠だと思うからです。

 

●志位氏の踏み込みには綱領上の根拠があった

 

 まず一九六一年に制定された旧綱領を廃止し、二〇〇四年の二三回大会で全面改定された現綱領が、志位氏の一連の根拠となっていることを見たいと思います。そのためには、最初に、二〇〇〇年の第二二回大会の決定にさかのぼらなければなりません。この大会の決定では、日米安保条約と自衛隊を三つの段階を経てなくしていくことを提起していますが、以下引用するように、第一段階とは「日米安保条約廃棄前の段階」、すなわち安保条約(自衛隊もです)が維持されている段階なのです。

 

「──第一段階は、日米安保条約廃棄前の段階である。ここでは、戦争法の発動や海外派兵の拡大など、九条のこれ以上の蹂躙を許さないことが、熱い焦点である。また世界でも軍縮の流れが当たり前になっている時代に、軍拡に終止符をうって軍縮に転じることも急務となっている。」

 

 これに続いて、大会決定では、いわゆる自衛隊活用論が打ち出されます。

 

「そうした過渡的な時期に、急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要にせまられた場合には、存在している自衛隊を国民の安全のために活用する。国民の生活と生存、基本的人権、国の主権と独立など、憲法が立脚している原理を守るために、可能なあらゆる手段を用いることは、政治の当然の責務である。」

 

 旧綱領のもとで入党し、党内教育を受けてきた人の多くは、党にとって日米安保条約の即時廃棄が中心課題だと考えているでしょう。しかし、その考え方は、もう二四年前の大会決定で否定されたのです。現在の党の立場では、とりあえずは日米安保条約が維持されている(自衛隊はもちろんのこと)第一段階が存在しているのです。そして、その段階で党の政策として掲げられているのは、いま引用した大会決定が明示しているように、憲法九条のじゅうりんを許さない立場から、戦争法(二〇一五年の新安保法制)の発動を阻止したり、自衛隊の海外派兵を許さないこと、軍事費の縮小を進めることなのです。侵略されたら自衛隊を活用することも決まっているのです。

 

 大会決定を引用することはしませんが、この第一段階を終えると、安保条約がなくなる第二段階を迎え、その後、第三段階になってようやく自衛隊解消が視野に入ってきます。それも、第三段階で平和外交に努めれば、アジアの平和が安定してくるだろうし、それを背景に九条を完全実施する国民の合意も成熟するだろうから、なんとか自衛隊解消が視野に入ってくるだろうという見通しが語られています。しかも、そういう状況になれば自衛隊はすぐに廃止するというのでもなく、「自衛隊解消にむかっての本格的な措置にとりくむ」のです。

 

 この大会の四年後に開かれた第二三回党大会では、一九六一年に制定され、その後は部分改正されてきた綱領が、全面改正されることになります。そこで次のような規定が設けられたことは、この問題を「日米安保条約廃棄前の段階」に始まって三つの段階を経ていくという前回大会の決定を、綱領として確認したものと言えるでしょう。

 

「自衛隊については、海外派兵立法をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる。」

 

 なぜ、党の基本的な考え方として、まず「安保条約廃棄前の段階」を設定したのか。安保条約の廃棄は第二段階の課題としたのか。そこには、この日本と世界で誰が戦争を起こすのか、それを防ぐには何が必要なのかという大問題について、旧綱領から現綱領への大きな変化がありました。(続)