二、安保・自衛隊問題での私の主張は旧綱領に反するが新綱領には合致する

 

1、志位委員長の安保・自衛隊問題の努力を実らせることが除名になる不思議

●志位氏による自衛隊活用論と日米安保条約第五条発動論の提起

●自衛隊合憲論でも志位氏は大胆に踏み込んだ

●志位氏と私の提唱の異なる点は除名に値するほどのものか

●再審査で除名を正当化するなら志位氏の反省と著作の撤回が不可欠となる

2、新綱領の安全保障の考え方は、旧綱領とは本質的に異なっている

●志位氏の踏み込みには綱領上の根拠があった

●「平和の社会主義を侵略するための安保条約」は成り立たなくなった

●帝国主義に対する見方が旧綱領と現綱領では根本的に異なる

●新綱領にもとづく創意的な発展が求められている

 

1、志位委員長の安保・自衛隊問題の努力を実らせることが除名になる不思議

 

●志位氏による自衛隊活用論と日米安保条約第五条発動論の提起

●自衛隊合憲論でも志位氏は大胆に踏み込んだ

 自衛隊に関する志位氏の立場の変更は、活用論の復権に止まりませんでした。自衛隊違憲論の変更にまで及びます。二〇一七年一〇月八日、総選挙を前にした党首討論の場で安倍首相(当時)から、「共産党が入る連合政権ができたとき、自衛隊は違憲だという立場を取るのか。そんなことをすればすぐに自衛隊を解消しなければならなくなる」と問われた志位氏は、次のように答えたのです(「赤旗」一〇月九日付)。

 

「そこで、私たちが参画する政権が仮にできた場合の対応ですが、その政府としての憲法解釈は、その政府が自衛隊の解消の措置をとる、すなわち、国民の圧倒的多数のなかで自衛隊は解消しようという合意が成熟するまでは、合憲という解釈を引き継ぐことになります。党は違憲という立場を一貫して堅持しますが、政府は合憲という立場を一定程度の期間、取ることになります。

 そして、最終的には(憲法判断を)検討することになりますけれど、そういう立場を堅持しますので、ご心配のようなことは起こらないということを答弁しておきたいと思います。」

 

 この時の志位氏の言明は、あくまで野党の国民連合政府に参加した場合を想定したものでした。立憲民主党など自衛隊合憲のやむを得ずそういう立場になるのかと考えた党員も多かったと思います。しかしその後、志位氏は、共産党が国会で多数になって、安保条約を廃棄するような政府すなわち民主連合政府ができた場合も、政権としては自衛隊は合憲とみなすことを宣言します(『新・綱領教室』下巻、二〇二二年四月刊行)。半年ほど前の総選挙で自民党などから野党の安保自衛隊問題での基本政策の違いの大きさを攻められ、「立憲共産党」と揶揄された体験をふまえ、数か月後に迫った参議院選挙には、野党間の違いを少しでも埋めて臨みたいという願いがあったのでしょうか。

 

「この時期は、自衛隊解消の国民的合意が存在しておらず、自衛隊を違憲とする国民的合意も存在していないということが当然予想されます。国民の合意なしに、政府の憲法解釈を合憲から違憲に変更することはできません。私たちは、安倍政権のように国民の合意なしに憲法解釈を一八〇度ひっくりかえすようなことはしません。

 くわえてもう一つ問題があります。自衛隊が存在しているという過渡的な時期に、仮に、政府として自衛隊を違憲とするという憲法解釈をしたらどうなるでしょうか。ただちに、自衛隊解消の措置をとることが、政府の憲法上の義務になります。そのような矛盾が生じることになります。ですから、民主連合政府ができたとしても、自衛隊が存在している過渡的な時期は、『自衛隊=合憲』論をとることになります。」

 

 これにもびっくりしました。一〇年前に私が志位氏から自己批判を求められた際、当初は自衛隊活用論の是非が焦点となり、意見の違いが最後まで埋められませんでした。その結果、志位氏から最後に求められたのは(直接ではなく小池晃氏を通しての話ですが)、私の一万字に及ぶ論文のなかで自衛隊を活用する話は出て来るが、自衛隊は違憲だということが一言も書かれておらず、それは共産党の基本的な認識に反するので、そこを自己批判せよということでした。私は当時、自衛隊は違憲だという基本認識は揺らいでいませんでしたし、問題になった論文にも自衛隊を解消すべきだということは書いており、自衛隊が違憲だという認識を前提としたものでした。ですから、どんな論文にも「自衛隊は違憲」という言葉が入らなければ自己批判が必要だという指導には違和感を覚えましたが、入っていないことは事実なので求めに応じることにしたのです。

 

 それほどまでに自衛隊違憲論にこだわった志位氏が、二〇一七年から二二年にかけて、そこを軽々と乗り越えたのです(実際には苦渋に満ちた決断だったと思います)。ただ、私も当時、党首になったつもりで党がどのような安保・自衛隊政策をとるべきか、その場合には自衛隊違憲論をどう克服すべきかを考えており、志位氏と同じような思考過程を通ってほぼ同じ結論に到達していましたので、志位氏の踏み込んだ発言に違和感を覚えることはありませんでした。それどころか当然の結論だと考えたのです。

 

 志位氏の発言のくり返しになりますが、一方で、日本周辺の情勢を見れば、政党として自衛隊解消に踏み出せるという判断はできない。他方で、自衛隊違憲論に立つ限り、政権を担えば即時にではあれ段階的にではあれ、自衛隊解消に踏みだすことが求められる。自衛隊違憲論を唱える政権なのにそれを解消しない政権は、みずから立憲主義を放棄すると宣言しているのと同じであり、そんな政権は憲法のもとでは存立することができないからです。それは、野党連合政権であれ、民主連合政府であれ、変わることはありません。志位氏の一連の言明は、私が考えてきたものと同じ基本方向を向いたものでした。(続)