いま、浅田次郎の『天子蒙塵』(全4巻)の3巻目を読んでいる。これって、中国の清朝末期からの激変を扱った同氏の『蒼穹の昴』からはじまるシリーズの最後(第5部)に当たり、張作霖爆破事件を主題とした第4部の『マンチュリアン・リポート』に続くものである。日本による満州国の設立とその破綻を描いており、溥儀や張学良などが登場することになる。

 

 関東大震災が話題になっていた昨日、溥儀が自分は日本の傀儡に過ぎないと自覚する場面を読んでいたら、突然、甘粕正彦が出てきてびっくりした。日本の特務機関の一員として、天津に幽閉されていた溥儀を満州まで秘密裏に連れ出してきて、その功績を買われて満州国の警察庁長官となり、溥儀とも親しくする役柄であった。

 

 甘粕と言えば、関東大震災に際して、大杉栄と伊藤野枝、甥の橘宗一(6歳)の3人を殺害した「甘粕事件」で知られる。禁錮10年の判決を受けて服役し、その後、満州に渡ったことだけは知識として存在したが、まさか溥儀とそれほど密接な関係にあったことなど知らなかったし、浅田次郎の小説に登場することも予想しなかった。

 

 それにしても、その関東大震災の日に、この場面に出会うとは。偶然としか言いようがない。

 

 浅田次郎の近現代史を扱った小説はほとんど読んでいると思うのだが、この『天子蒙塵』は、それぞれの場面ごとに異なる登場人物の視点で描かれていて、かつその登場人物のなかには溥儀や張学良とは異なり、あまり一般には知られていない人も含まれる。そこが少し没入しづらいところを生みだしているのだ。他のシリーズと同様、どの巻も300ページを超えるし。

 

 だけど、溥儀と甘粕の結びつきという、私が知らなかった(一般にはよく知られているのかもしれないが)視点がもたらされ、ちょっと緊張感を回復した次第である。最終巻に向けてばく進しなければ。