「(2)松竹伸幸氏は、1月に出版した本のなかなどで、『核抑止抜きの専守防衛』なるものを唱え、『安保条約堅持』と自衛隊合憲を党の『基本政策』にせよと迫るとともに、日米安保条約の廃棄、自衛隊の段階的解消の方針など、党綱領と、綱領にもとづく党の安保・自衛隊政策に対して『野党共闘の障害になっている』『あまりにご都合主義』などと攻撃をおこなっています。」

 

 これは哀しいですね。私はこの間、自衛隊と日米安保の問題をめぐり、志位さんの率いる共産党が苦闘のなかから導き出したものを歓迎し、それを豊かにしたいと思っただけです。

 

 だって、「専守防衛」というのは、侵略されたら自衛隊を活用するということですが、それは共産党が2000年の22回大会で決めたことです。この大会では志位さんが報告を行っています。

 

 「そうした過渡的な時期に、急迫不正の主権侵害、大規模災害など、必要に迫られた場合には、存在している自衛隊を国民のために活用する」

 

 この決議は、しばらくの間、冬眠状態におかれていました。しかし、2015年に新安保法制反対闘争を経て、志位さんが野党連合政権構想を打ち出すとともに(非常に画期的な構想でした)、自衛隊活用論は復活します。

 

 それだけではありません。日米安保の存在が前提となっている野党連合政権では、侵略されたら安保を発動するかが問題になり、共産党はそれを認めるのか問われます。日米安保廃棄は、自衛隊問題以上に共産党の綱領上の重要課題ですから、私は志位さんはどうするのだろうと見守っていました。そうしたら志位さんは、日本外国特派員協会の記会見で、記者の質問に対してこう述べたのです(2015年10月29日)。

 

記者「仮に日本有事が起こったさいには、安保条約の発動を求めますか」

志位「その時には、安保条約第5条で対応します」

 

 正直言って、びっくりしました。いま共産党から「安保容認論者」扱いされている私ですが、志位さんがここまで踏み込むなんて、想像もできていませんでした。志位さんはそれだけ野党連合政権を誕生させたかったのでしょう。

 

 自衛隊をめぐる憲法論も、野党連合政権をめざし、志位さんが乗り越えなければならないと思ったものです。そしてその過程で、野党連合政権を経て、共産党主導の民主連合政府(安保条約は廃棄する)ができた場合でも、自衛隊違憲というこれまでの党の態度では持たないと志位さんは考えが及んだのです。『新・綱領教室』(2022年4月15日初版)には次のように書かれています。

 

 「野党連合政権としての憲法判断は『自衛隊=合憲』論ということになります」

 「民主連合政府ができたとしても、自衛隊が存在している過渡的な時期は、『自衛隊=合憲』論をとることになります」

 

 日米安保廃棄、自衛隊違憲・解消をずっと唱えてきた共産党の党首が、ここまで言い切るなんて、どんなに苦悩があったでしょう。党員からの反発も予想を超えたものだったと思います。

 

 私は、この問題で悩んできた一人として、志位さんの煩悶が手に取るように分かります。だからこそ、志位さんのこの努力を無にしないために、さらに深く豊かな検討が必要だと思いました。「一口反論」なので中身に触れる余裕はありませんが、私が本で提起している「核抑止抜きの専守防衛」は、私なりの苦悩の到達です。

 

 私の提起を安保容認論・自衛隊合憲論と批判するのは構いませんが、それを除名の理由にするならば、まずじゃあ志位さんの努力は何だったのかを考えてほしい。志位さんが提起した範囲なら誉められて、そこを少し前に進めようとすれば除名なんて、やはり整合性がとれないと思います。(続)