さて、第二事務は党員をスパイしているのか。まず、篠原氏の言葉を引用してみよう。

 

 「党中央委員会や都道府県委員会の最高幹部たちと直接触れあう部署の任務につくと、幹部の不合理な行動や非人間的な振る舞い、あるいは組織私物化の横暴の姿を目のあたりにするようになります。

 そうすると、よほど卑屈な人間でない限り(現実には最高幹部たちに取り入り、保身に走る党本部職員も少なくないのですが)、心中に不満がふつふつと沸いてくることになります。

 これが幹部と異なる意見の具申や表明につながることがままあるのですが、そうなるとその党職員は「反逆予備軍」として“札付き”となり、要監視対象とされてしまいます。

 そして、この監視任務を担う組織機構が日本共産党中央委員会には形成されているのです。」

 

 その機構が第二事務であり、その一部門である「尾行監視部門」だ。それが篠原氏の言いたいことである。

 

 少し考えるだけで、この主張にはリアリティがないことが分かる。いくつもある。

 

 篠原理論によると、「よほど卑屈な人間でない限り」不満が高まり、「異なる意見の具申や表明につながる」ことが、「ままある」ということだ。ということは、相当数の人間が異なる意見を表明していて、「要監視対象」になっていると言いたいらしい。20数万も党員がいるのだから、数万人規模か少なくとも数千人いないと、こんな表現はできない。。

 

 しかし、それだけ大規模な人数を監視できるというのは、尾行監視の仕事をよく知らない人の考えだ。私が学生時代、全学連委員長になったとき、公安警察の実態をよく知っている共産党の部門の人から言われたのは、全学連委員長は公安の24時間監視の対象で、3人がローテーションでついて回っているから注意するようにということだった。有効な監視をするには、それだけの人数が必要なのだ。共産党の委員長などの防衛に3人がローテーションで付いているのも、仕事の内容は別だが、1人を1日中ずっと見守るのも同じ人数が必要だという理屈である。

 

 第二事務の人数の詳細は知らないが、せいぜい数十名(20名から80名)の低いほうである。30名と仮定して、全員が「尾行監視任務」にあたっていたとしても、監視できる対象はせいぜい10名というところだ。しかも実際は、大半が幹部防衛に当たっていて、「絶対におろそかにできない」任務として粉骨砕身している。そういう任務を遂行しながら、いったい誰が尾行監視をできるのか。どこにそんな余裕があるのか。10名で「尾行監視班」をつくったって、せいぜい全国で3人を監視できる程度だ。ましてや、篠原氏が強調するほどの多人数の尾行監視など、全員が寝ないで頑張ったって、とうていできることではない。

 

 いや、本部勤務員全体がやるのだとか、都道府県の専従にもさせるのだとか、なんとでも言えるかもしれない。しかし、経験のないものに「尾行監視班」をさせればさせるほど、失敗もするし、班に入れられた人の実名の告発なども出てくるはずだが、そういうものは見かけない。

 

 もっともリアリティがないのは、篠原氏によると、「党中央委員会や都道府県委員会の最高幹部たちと直接触れあう部署の任務につくと」、幹部への不満が高まって意見を述べるようになり、「要監視対象」になるということだが、その「最高幹部たちと直接触れ合う部署」の筆頭が第二事務である。篠原氏の言を信用するとすれば、第二事務こそが不満を高めて意見を述べ、「要監視対象」になってもおかしくない。第二事務の「尾行監視班」がじつは別の部署の人に尾行監視されているとでも言いたいのだろうか。

 

 それでも、1人や2人なら、そんな任務をしているかもしれない。そんな証言もあると言われるかもしれない。たしかに、「していない」ことの証明は難しい。しかし、そこは自分の体験から言えることがある。(続)