さて、幹部防衛のことである。第二事務のもっとも大事な仕事だ。

 

 篠原氏は記事で、「第二事務にリクルートされた党員は数週間にわたる合宿で『党幹部防衛は革命の至上課題』といったテーマに関して膨大なテキストを基にみっちりと講義され」と書いている。合宿があるのか、それが何週間あるのか、その詳細を私は知らない。しかし、篠原氏はこれを揶揄的に書いているが、幹部防衛が警護や防衛の仕事のなかでもっとも大切なことは、共産党に限らず、SPの存在なども含めて、この世界の常識に属することである。

 だって、例えば事務所防衛にしても、防衛に失敗して財産がなくなっても、再建することはできる。しかし、幹部は一日にしては成らず、で

ある。そういうことわざはないが、何年何十年も現場で経験を積み、意欲的に勉強もして、「この人なら共産党を前進させてくれる」と誰もが認めるほどにまでなった人が、ようやく幹部として認められるのである(そのはずだ)。失ってしまったら取りかえしがつかない。いや、取りかえしはつくかもしれないが、何年何十年もかかるという論理である。

 

 だから、第二事務ではなくても、その程度のことは勤務員なら教育される。篠原氏は国会の秘書しかやっていないので経験していないのかもしれないけれど。

 知識として教育されるだけでなく、実地の訓練もある。党本部の近くのビル内に立派な訓練施設があって(篠原氏は練馬の民間道場があったと言っていて、私はまったく知らないけれど、そんな遠いところに行かなくてもいいのだ)、第二事務が日夜訓練を繰り返しているし、私も国会秘書を辞めて党本部の勤務員になったとき、ちゃんと訓練を受けた。

 

 ただ、私が受けた程度の訓練で、どの程度役に立つかは別問題である。せいぜい受け身をどうするかくらいのことだから。私が「銃で撃たれたらどうするんだ」と聞いたら、教育する側の第二事務の人の答えは、「めったに当たらないから心配するな」。

 

 篠原氏は、「空手や柔道の有段者が多い」と書いていて、実際にそういう人もいるが、何十年も務めていても、段のない人もいる。なぜかといえば、そういうことよりも、幹部を守るという強い意思のほうが大事だからである。幹部が襲撃された際、とっさに幹部と襲撃者の間に自分の身体を持ってこなければならない。有段者だからといって、それだけでできる仕事ではないのである。

 

 それよりもかつての私がいつも心配していたのは、第二事務の人は一日中幹部について回らなければならないから、その幹部の性格や能力まで全部分かってしまうことだった。率直に言っていろいろな人がいるわけであるが、その幹部がどういう人であっても自分の身を挺して守るなんてことは、とうてい自分にはできない仕事だと思う日々であった。

 

 さて、いよいよ本論に入っていく。第二事務は党員をスパイしているのかということだ。(続)