台湾有事をめぐる議論のなかで、その有事を引き起こす責任がどの国にあるのかをめぐり、いまだに責任はアメリカや日本、台湾にあるとする見方が根強い。ある別ブログのコメント欄でも、私の名前をあげて、「誤りがある」として、「台湾有事は中国の台湾侵攻で開始される事態ではなく、それ以前に挑発がある」と述べる人がいた。だから、「台湾や日本、アメリカの軍事力による対応を批判する事が正当化される」というのである。

 

 「挑発」があったから武力行使してもいいだなんて、プーチンによるウクライナ侵略の論理とほぼ同じだと思うが、まずすでに資料として紹介した中国側の発言を、そのまま引用しておこう。最初に、「反分裂国家法」(2005.3.14)では、次のような事態で武力を行使するとある。

 

 「いかなる名目、いかなる方式であれ、“台湾独立”分裂勢力による、台湾を中国から分裂させた事実、或いは、台湾を中国から分裂させようとする重大な事変の発生、或いは、平和統一の可能性の完全な喪失に対して、……」

 

 次に「台湾同胞に告げる書」40周年での習近平の記念演説(2019.1.2)である。

 

 「決してさまざまな形の『台湾独立』の分裂活動のためにいかなる空間も残すことがあってはならない。

 われわれは武力の使用を放棄することを約束せず、一切の必要な措置を講じる選択肢を残しているが、その対象としているのは外部勢力の干渉とごく少数の『台湾独立』分裂分子およびその分裂活動であり、決して台湾同胞を対象としているのではない」

 

 まずこれら公式文書では「挑発」という言葉は使われていない。この言葉は、台湾の人々の独立志向をにがにがしく思っている人の主観が反映した言葉である。

 

 ただ、何も起こっていないのに、ある日、中国が言い分もなしに武力行使するわけではない。たとえ中国のような国際法を無視する国であっても、何か口実は探し求めている。これまでアメリカだって、侵略するのに際して、「その国にいるアメリカ人の生命が脅かされた』とか、「その国の独立が危機に瀕している」とか、その程度のことは口実にした。今回のロシアによるウクライナ侵略も、「ウクライナがNATOに接近し、ロシアの脅威になっている」という口実によるものだろう。

 

 しかし、そんなことを理由に武力を行使していいのか。国連憲章は、自衛権の行使として武力を行使できる条件を厳格に定めている。それは「武力攻撃が発生した場合」(第51条)というものだ。中国に対する武力攻撃が発生したら、中国が武力の行使をしても自衛権の発動として許されるということだ。

 

 台湾の人々が独立に向かって動き出したとして、それは「挑発」かもしれない。しかしそれを「武力攻撃」に等しい攻撃と言えるだろうか。

 

 もちろん、国連憲章で規定されているのは、国家と国家の関係の考え方であって、中国と台湾の関係はそういうものではない。しかしでは、一つの国だとしても、ある地域の人々が独立運動を開始した時、その国の政府が、その地域の人々に武力を行使するのは、「国内問題だから国際法の律する分野ではない。中国の国内法で合法だったら正当化される」と言えるのか。(続)