さて、先日、この問題での資料集をアップしたが、それなりに貴重なものだと思っているので、少し宣言しておきたい。もちろん、この問題の専門家にとっては周知のものばかりだけれど、これから勉強しようとする人にとっては、基本的な資料がまとまっていて使いやすいと思うので。

 

 例えば、中国側が、台湾統一をどういう手段で成し遂げようとしているかで、資料を4つ掲載している。列挙すると、以下である。

 

6、「台湾同胞に告げる書」(79.1.1)

7、葉剣英全国人民代表大会常務委員会委員長の台湾の祖国復帰,平和統一実現の方針・政策関する談話(81.9.30)

12、「反分裂国家法全文」(2005.3.14)

13、「台湾同胞に告げる書」発表 40 周年記念大会での 習近平演説(2019.1.2)

 

 「台湾同胞に告げる書」が79年1月1日に出されたのは、ちょうどその日、米中の国交正常化が果たされたからである。ニクソンが72年に中国を訪れ、国交正常化に踏みだすことを表明したが、交渉が難航して何年もかかり、ようやく78年12月15日に「アメリカ合衆国と中華人民共和国との間の外交関係樹立に関する共同コミュニケ」(第二次米中共同コミュニケ)が締結され、翌年1月1日に発効したわけだ。それを受けて、その日のうちに出されたのが、「台湾同胞に告げる書」であった。

 

 「親愛なる台湾同胞の皆さん」ではじまるこの「書」は、それまでは中国も台湾も相手を武力でやっつけて統一するぞと意気込んでいた状態を解消するためのもので、台湾の人々の気持ちをつかもうとするものだったのだろう。あまり内容的に突っ込んだものではないが、歴史的な文書として掲載した。

 

 この「書」の具体化のような役割を果たしたのが、次の葉剣英談話である。ここで「一国二制度」の考え方があらわれてくる。「台湾は、特別行政区として、高度の自治権を享有する」とか、「台湾の現行社会・経済制度を変えず、生活様式を変えず、外国との経済・文化関係を変えない」というものだ。

 

 注目されるのは、「台湾は……軍隊を保有することができる」というものだ。これは香港の一国二制度には見られなかったもので、中国としてもかなり踏み込んだものだったと思われる。

 

 だから私は当時、これなら自治権の保障になるかもしれないと感じた。しかし一方、変わらないのは「社会・経済制度」にとどまっている。これは「政治制度」は変えるということだ。香港のその後の事態を体験すると、「社会・経済制度」だけの自治というだけでは、台湾も香港の二の舞になることは避けられない。そう台湾の人々は感じたことだろう。(続)