明日から出張するのだが、その際にお会いするお一人が、この著者の鮫島さんと席を同じくして仕事をしたことのある人で、この本のなかにも実名で出てくる。だから、もちろんあれだけ評判になっている本なので、いつかは読もうと思っていたが、礼儀としても読んでおかねばならないと感じて読了した次第である。

 

 いや、何よりも、読み物として一流であった。良質のエンタメ小説を読むような気分で、一瞬で(言い過ぎか)読んでしまった。活字を書くことを生業としていて、かつ大手新聞社を離れて自分の責任で生きていくことを選択した人の本は、やはりおもしろさが違う。

 

 読むのが遅れた理由は明白である。鮫島さんが苦労した日々、朝日新聞は、吉田調書(福島原発の)、吉田証言(慰安婦の)、池上彰コラムの三つの問題で大揺れに揺れていて、鮫島さんは吉田調書の当事者だったのだが、一方の私は、吉田証言を象徴とする慰安婦問題に全精力を傾け、本を執筆していたからである(『慰安婦問題をこれで終わらせる。』小学館)。

 

 吉田調書問題についてもそれなりに知っていたつもりだが、この本を読んで、ほとんど理解していなかったことに気づかされた。たしかに、この種の問題で記者までが処分されるって、ちょっと理解しづらい。それに、実際に紙面を大きく飾っていたのは吉田証言を含む慰安婦問題だったと記憶するから、国民の関心事と朝日の経営陣の関心事が、完全にずれていたのだろうね。

 

 だけど、リアリティは感じる。大新聞者の経営トップが、自分に火の粉が降りかかるのを避けるため、責任を下部になすりつけるわけだ。しかも、ほんとうに責任をとらなければならない問題から世論の目をそらさせるため、別の問題を焦点に当ててくるわけだ。

 

 そして、世界はネット時代になっているのに、そして社員のなかにはそれに気づいて努力しようとしている人がいるのに、従来型の紙の新聞のやり方にしがみつく。新しい方向への努力はつぶしにかかる。

 

 リアリティを感じるのは、これが朝日新聞の固有の問題ではないからだろうね。日本のほかの大企業にも、企業ではない大組織にも、多かれ少なかれ共通する問題がここには描かれている。

 

 鮫島さんは退職することで、その経験をリアルに描くことに成功した。私の場合は、現状のままでがんばるので、同じようなことはできないだろう。だけど、似ているところもあるようなので、お酒でも飲めば意気投合するかもね。

 

 まあ、そんな難しいことは別にしても、気楽にも読める本です。お薦めです。

 

 なお、昨日の記事に記憶違いがありました。スリッパでテレビ画面の中曽根さんを叩いたのは、串田孫一さんでした。