安倍さんの銃撃事件をめぐって、直後に奈良県警の本部長が責任を認めた。警備部門の元幹部も問題点があったことを指摘している。

 

 私は、この種の仕事をしたこともないし、考えたこともない。だから、360度すべてから襲撃を受ける可能性のあるところを演説場所として選んだことの可否などは、率直に言って判断がつかない。

 

 ただ、1つだけ思うのは、実際に1発目が発砲されてからの、警護していたSPと県警の警備部門の対応のことである。2発目まで3秒間があったというが、その間に何ができたかという問題をめぐってである。

 

 この問題に関心があるのは、私が共産党本部に勤めていた時代、少し話を聞いたことがあるからだ。共産党にも幹部を警護する部門があって、たいへんな仕事だなあと思ったことがあるからだ。

 

 警護(共産党では防衛と言う)にもいろいろな分野がある。共産党の場合、事務所防衛というもの大事な仕事であって、事務所をからにすることは許されず、だから夜にも誰かが宿泊することは必須で、その任務に就いているのに飲酒することはあり得ない。

 

 防衛の任務に就いている人に話を聞くと、そういう各種の防衛の仕事のなかでも、幹部防衛はもっとも大事な仕事だと教育されるそうだ。なぜなら、事務所は襲撃されて焼き払われても建て替えることは可能だが、幹部は替えが効かないからだという。何十年もかけて育てて幹部になるのだから、幹部を防衛することは、防衛のなかでももっとも崇高な任務と位置づけられているわけだ。

 

 しかしそれで何をするかというときわめてシンプルである。幹部が襲撃された際、襲撃者と幹部の間に自分の身体を割り込ませるだけ、ただそれだけだと言うのだ。今回の事件に即して言うと、1発目が発砲された時点で、警護者は山上容疑者と安倍氏の間にすばやく身を移し、盾になるということであろう。

 

 それを聞いたとき、たいへんな仕事だと思った。「身体を割り込ませるだけ」というが、それって自分が傷ついても、死ぬことになっても幹部を守れということだから。

 

 普通の感覚では、とっても無理だろう。しかも、常に幹部にくっついているので、その幹部の性格とかも含めて分かってしまう。尊敬できる人ができない人かも分かる。「あの幹部が自動車電話で別の幹部に松竹さんの悪口を言ってましたよ」と私に教えてくれるような防衛の人もいたから、「これはおかしいな」と感じることも多いのだ。

 

 それでも、万が一の時は、自分の命を捨てるのが最大の仕事なのだ。もっと光が当たっていい仕事だと思う。