さて、政府の「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」だが、次に「自衛隊の防衛体制」をどうするのかの設問である。「増強した方がよい」、「今の程度でよい」、「縮小した方がよい」、「わからない」を聞かれている。

 

 ソ連崩壊直後の91年はそれぞれ、7・7%、62・1%、20・0%、10・3%だった。現状維持以上(増強も含む)を望む国民が8割いたのだが、「縮小」の声も2割に達していた。他方、最新の2015年調査では、29・1%、60・1%、4・5%、6・2%である。四半世紀を経て、「増強」が3・8倍加して現状維持とあわせて9割となる一方、「縮小」は20%から4・5%であるから、4・5分の1にまで減少したことになる。「廃止」は項目に入っていないが、4・5%よりかなり下であることは明らかだろう。

 

 現在、選挙中ということで、メディアが候補者にアンケートを取っているが、もしこの項目で聞かれたら、共産党の候補はどれを選ぶのだろうか。おそらく「縮小」であろう。

 

 けれども、それを支持する国民は4・5%しかいないから、共産党の得票もその範囲にとどまってしまう。志位さんの活用論は、もしそれが少なくとも「現状維持」も視野に入れたものなら、支持者を増やす可能性を持つものではある。

 

 ただし、選挙戦の現状を見ると、その可能性を活かすような宣伝活動は見当たらない。外交を中心に押し出すのはいいのだが、それも「外交が破れて相手が攻めてきても万全の防衛体制を敷いていますから安心して外交に専念させてください」という時にだけ、外交の言葉は響いてくるのだと思う。

 

 一方、このような数字を紹介すると、調査の信ぴょう性を問う声が出て来ると思う。「自衛隊への期待は災害派遣への期待であって、軍隊としてのものではない」とか、「危機を煽る政府の世論操作が影響している」というものである。

 

 しかし、まず後者について言うと、この調査は3年毎に同じ設問で実施されてきたことに留意しなければならない。政府が危機を煽る傾向があることは否定しないが、調査の時期にあわせて3年毎に北朝鮮がミサイルを発射したり、中国が尖閣への侵入回数を増やしたりするなことは不可能である。この世論調査は、そういうこととは無関係に、国民の自衛隊への印象が向上し、防衛体制の維持・強化を求める世論が増大し、自衛隊の縮小の世論が激減していることを示している。要するに法則的なものというか、世論の変化は同じ方向を向き続けてきたのである。これを世論操作だけで説明することは難しい。(続)