沖縄の事を「自分事」として感じてほしい。ブログのこのタイトルは、デニー知事の口癖のようなものである。2年ほど前、県庁を訪れて知事応接室でインタビューした際、その目的で開始した全国キャラバンの一環として札幌で講演した際、札幌の地図に沖縄の地図(もちろん米軍基地も表示されている)を重ね合わせ、札幌に沖縄と同じだけの米軍基地が配置されるとこうなるのだとお話ししたという。
この程度のことなら、デニー知事でなくても考えつく(失礼!)。デニー知事の偉いところは、アメリカ政府とも日本政府とも話し合える「共通の土俵」をつくらなければならないと考えたところだ。「沖縄のアイデンティティ」は県民の団結のためには不可欠だったが、それをアメリカや日本の政府に主張しても、すれ違いが生じるだけである。なぜなら、両国政府が関心を持っているのは、中国の覇権主義的な行動に対してどう対応すべきか、そのために沖縄をはじめとする基地はどうあるべきかだからである。
これは、中国の脅威を肌で感じている日本国民の関心でもある。だから、本土の人々は、沖縄に負担を押し付けることに心の奥底では申し訳ないと感じながらも、辺野古への新基地建設を進める政府を消極的にであれ支持することになっている。
それならばと、デニー知事が考えたのは、米中対立のなかで日本を沖縄が果たすべき軍事的、政治的役割を鮮明にすることだ。軍事的役割は果たさないというのではなく、アメリカの現在の軍事戦略を前提として、それに従って沖縄がどんな役割が果たせるのかを打ち出すのである。同時に、そのアメリカの戦略という点からも、辺野古での新基地は不要なのではないかと提起することである。
それなら、アメリカも納得しうるというか、少なくとも議論を避けることはしないのではないか。また、そういうものなら、本土の国民も関心を寄せてくれるのではないか。それがデニー知事が考えたことであった。
そうやって知事が設置したのが、「米軍基地問題に関する万国津梁会議」である。3年前の5月に設置され、2020年3月に第1回の提言を出し、21年3月に2回目の提言を出した。
この「万国津梁会議」の委員長に指名されたのが、この連載に何回も出てきた柳澤協二さんである。11年前、柳澤さんの抑止力に関する本を出し、県知事になろうとした伊波洋一さんを助けようとして果たせなかったのだが、10年を経て「オール沖縄」で誕生したデニー知事が柳澤さんを指名することで、ようやく新しい段階に入りつつあるように思える。
「オール沖縄」は日米安保を脇において共闘しているのだが、ではどんな安全保障政策が必要なのか、本土も沖縄も(そしてアメリカも)受け入れられる安全保障政策はどんなものか。それを提示できる条件が生まれたわけである。(続)