(9条の会、新日本婦人の会、平和ネット3.5講演会の記録)

一、足元の現実と9条の理想の乖離への自覚が大事だ

 1、ウクライナ危機は侵略がリアルなものだと示した

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 まずお断りしておきたいのは、本日のお話は、あまり明るいものにならないということです。こういう場では、9条ってすごい理想をあらわしていて、世界に誇るべきもので、理想的だけでなく現実的なんだというお話をすると歓迎されるのですが、そういうお話にはならない。

 

 なぜかといえば、何よりも足元の現実がそうではないからです。昨年の総選挙結果も護憲勢力が後退したのが現実でしたし、現在のウクライナ危機にしても、9条で大丈夫なんだろうかろいう疑念を国民にもたせるものとなっています。そんな局面で、どんな明るい話をしても、現実味をもったものになりません。しかし、「敵を知り、己を知れば」という孫子の兵法にもあるように、自分たちのおかれている現実を正確に知ることが、9条護憲という目標を達成するもっとも近い道筋だと強調しておきたいと思います。

 

 今回のロシアのウクライナ侵略。この事態を捉えて9条の大切さを説く人もいますが、大方の人にはそれは届いていないでしょう。今回の事態は、誰がどう見ても、他国を平気で侵略しようとする国が存在していることを示しています。ウクライナ側がもし戦力を保持していなければ、ロシアの武力攻撃の前に簡単に陥落させられた。日本もまた、9条の理想を守って自衛隊を廃止してしまえば、侵略には抵抗できず、他国の占領・支配のもとにおかれてしまう。そお現実をいやが上にも示したものでした。

 

 冷戦が終わってしばらくの間、国家間の戦争が終焉に近づくような気配がありました。21世紀になってすぐ、国連が第二次大戦後の戦争の歴史を総括的に評価した報告書を出したのですが、それによると冷戦期は、国家間の戦争が毎年何例かは起きていたのですが、冷戦が終了すると年に一回程度に激減しました。内戦やテロは増加したのですが、国家間の戦争はなくなっていくかもしれないと思わせた。

 

 それを逆転させたのが、アメリカがアフガニスタンとイラクを相手に開始した戦争でしたが、それも行き詰まりのなかで終わりました。そういう状況下での今回の戦争です。戦争をしてはならないという国際法はいとも簡単に打ち破られました。しかも、国民多数が不安を抱いている中国が、侵略するロシアを批判する立場に立っていないことが、余計に不安をかき立てています。

 

 ですから、日本で9条を守ろうとする人々も、今後は、日本が侵略されることはない、だから9条を守るんだという言い方はできません。できても通用しません。日本が侵略されることを前提に9条を語ることが求められる時代に入ったということです。暗い話で申し訳ないのですが、この現実をふまえないでどんなに護憲を訴えても、国民に響かないのです。(続)