今回の経過のなかで、悪い意味で印象に残ったのは、テレビのニュースだが、プーチンが介入方針を示して閣僚などに意見を求める映像だった。全員が全員、ちゅうちょもなく賛成し、プーチンの決断を褒め称えていた。そこには、何十年もトップにある独裁国家(国家に限らず独裁的団体もだが)の指導者が、必ず陥る姿が象徴的にあらわれていたように思う。

 

 クリミアを併合したときも、下がっていたプーチンの支持率が急上昇した。どんな歴史を見ても、いったん戦争を決断するとナショナリズムが高揚し、他国を批判し自国の指導者を持ち上げる世論が高まるものである。今回もプーチンのねらいはそこにあるのだろう。

 

 昨年3月、中国が台湾に軍事介入するのは2027年の前だという話が、アメリカのインド太平洋軍の司令官から出された。その根拠として言われたのは、もちろん中国の軍事力が急速に拡大するということもあるのだが、もう1つは、2027年が習近平が4期目を迎えるのがその年だということだった。

 

 今年の3期目は、中国共産党史上も異例のこととはいえ、盤石な体制で選出されそうである。しかし、さすがに4期目となると、反発も高まろう。習近平が独裁体制を強めるのも、国内で異常な格差が広がり、「共同富裕」を掲げることによって世論をなだめないといけないという側面があって、そこに失敗すると追い落としにあうことになる。

 

 それをはねのけて、建国の父である毛沢東、改革開放で名を成した鄧小平につづき、3人目の終身指導者となるには、台湾を自分のものにするしかない。そう思った習近平にとって、戦争をしかけることは、今回のプーチンと同様、きわめて合理的な判断になるのではなかろうか。

 

 それでも、今回のロシア侵攻での唯一の救いは、あのロシアでプーチンの戦争に反対する集会やデモが起きていることだ。独裁国家だから弾圧されていくだろうけれど、あれだけの反対運動が各地で起きるということは、ナショナリズムの高揚をねらったプーチンには意外なことだったに違いない。

 

 プーチンのねらいに打撃を与え、こんな戦争をしてはいけないことを教訓にする最大の方法は、ロシアの反戦世論がもっと高まることだ。それがプーチンの指導者としての生命を終わらせるまで発展していくことだ。

 

 もしそうなるなら、習近平も、台湾武力解放が自分の失脚につながることを恐れ、おいそれとは手を出せなくなるに違いない。いま何をしていくのか、正念場を迎えている。あすから連載を再開します。