国民民主党が政府予算案に賛成し、話題になっている。現在連載中の野党共闘政権とも関係する問題なので、本日はこれについて書いておきたい。

 

 立憲の小川政調会長が、立憲主導の政権ができたとして、「限定的な閣外からの協力」をうたった共産党が、政府が提出する予算案に賛成するのだろうかという話をしていた。そういう心配が生まれるほど、政府の予算に賛成するか反対するかは、政府に対する立ち位置をあらわす象徴的な問題である。予算というのは、政権の政策を遂行するために組まれるもので、それに賛成するということは、政権の政策を支持することを意味する。玉木さんは、自分たちは野党だといまでも強調しているが、予算に賛成しながら野党であるというのは、矛盾した話ではある。

 

 ただ、野党が政府予算案に賛成した事例は、過去、皆無ではない。今回、28年ぶりと言われるが、1994年度予算案に対して、社会党と新党さきがけが賛成している。この両党は、予算採決の直前まで予算を提出した細川政権の与党だったが、そこから飛び出したものの(結局、自社さ政権をつくって村山さんが首相になる)、予算編成した当事者としての責任があったので、賛成するのは当然だっただろう。いずれにせよ、異例の事態のなかでの賛成であったから、今回の国民民主と比較の対象にはならない。

 

 ところで、共産党の小池さんは、予算に賛成するならもう与党と同じだと批判しているが、その共産党も政府予算案に賛成したことがある。95年1月、阪神大震災があり、自社さ政権が大規模な補正予算を提出したのだが、それには賛成したのである。

 

 ちょうど私が共産党の政策委員会で勤め始めたときだが、内部ではいろんな議論があった。補正予算というのは、限定的な性格を持っており、たとえば不況対策限定で防衛予算も含まれないと、なかなか反対する理由が見つからない。だけれども、それまではどんな補正予算であっても、「これは本予算の一部だ、本予算に反対なら、その一部である補正にも反対だ」として反対を貫いてきたのである。

 

 けれども、何と言っても、あの阪神大震災の後である。予算の中身も、注文はいくらでもつけることができるが、支出すると被災者が困るということはあり得ない。そこで、党内のちゅうちょを押し切って賛成することにしたのだ。当時のメディアはびっくりしたけれど拍手喝采したし、神戸から我が家に避難してきていた両親を抱える我が身としても、たいへんうれしいことであった。

 

 共産党がもし、この予算案に反対したら、世論の冷たい支線を浴びることになっただろう。だから、予算に賛成するか反対するかは、与党か野党かという区分けともかかわるけれども、同時に、世論の動向とも関係するということだ。玉木さんの決断を世論が支持するなら、それもあり得るということだとは思う。

 

 しかし、阪神大震災のための予算と、トリガー条項のための予算と、果たして比較の対象になるのかという問題がある。玉木さんの決断を国民世論が必ずしも支持するとは限らない。しかも、こうやって政策・予算が与党と近づくにつれて、世論は「与党と同じなら、経験の少ない元野党よりは、実績のある従来からの与党」というふうに動く可能性も大きい。維新は、そうならないように、岸田政権になってから、自民党を支持する保守層を獲得するため右寄り路線を進み、与党支持者を獲得しようとしている。

 

 いずれにせよ、玉木さんの大きな賭であることには違いない。さて、このバーゲニング、どう転ぶのだろうか。