前回、キューバ自身が国連人権委員会の調査団を受け入れるという作戦をとり、ラテンアメリカ諸国がそういう提案をして可決されたことを書いた。その決議にもとづきキューバに人権調査団が派遣され、翌年の委員会に報告書が提出された。その結論は次のようなものだった。

 

 「キューバには、大量かつ重大で組織的な人権侵害は存在しないが、多くの基本的人権に関して広範な制限が存在しており、その事実は(キューバ)当局によって認識されている」

 

 ここは少し解説が必要だろう。国際社会が関与して是正すべき人権問題とはどんなものかという問題がここには横たわっている。

 

 キューバにおける人権の制限が重大なことは言うまでもない。とくに、この調査団に対しても、キューバ当局は、社会主義の敵には表現の自由を保障しないと明言するなど、いわば基本的人権を堂々と制限する立場を表明していて、論外である。とりわけ社会主義にシンパシーを感じている人なら、そういう立場がどんなに社会主義への信頼を裏切るものであるかについて、キューバを断固として批判すべきだろう。

 

 ただ、国連調査団は、キューバの人権侵害について、「大量かつ重大で組織的な人権侵害は存在しない」と言い切っている。これは、「重大で組織的な人権侵害」だったら国際社会が関与すべきということなのだが、それって何なのだろう。

 

 国連人権委員会が当初から重視してきたのは、南アフリカのアパルトヘイトであり、イスラエルによるパレスチナ占領地域であった。白人政権による黒人に対する差別、イスラエルによるパレスチナ人への迫害が対象だったのだ。

 

 こうなったのは、戦後、国連で多数を占めるにいたった旧植民地諸国の主張が通ったからというわけではない。そもそも国連の理念にかかわるものである。ナチスドイツがユダヤ人を撲滅すべき対象と位置づけ、虐殺していったことを体験した国際社会が、その種の迫害を国際社会が結束して止めさせるべきものと考え、それを「重大で組織的な人権侵害」と呼ぶようになったのである。

 

 つまり、一般的にある国が自国の国民の人権と基本的自由を奪うというのは(キューバのようにである)、それはそれとして重大であり、止めさせなければならないのだが、国連が結束して関与すべきは、ある特定の民族集団、部族集団などを抹殺したり蔑視する対象と捉え、殺害したり投獄したりする行為だということである。

 

 中国によるウイグル族、チベット族に対する迫害は、十分その資格があることがわかるだろう。キューバの人権侵害とは質的に異なるということである。(続)