●どんなに困難でも戦争と犠牲の発生しない道を探求すべきだ

 

 本書は、このような現在の議論とは一線を画する。この地域で絶対に戦争を起こさない道、台湾有事の発生そのものを回避する選択肢を検討するものである。

 

 「そんな方法があるのか」と多くの人は懐疑的に捉えるだろう。しかし、賛否は分かれるだろうし、常識からも外れることを承知で言わせてもらえば、二つあると考える。一つは、中国による「一国二制度」の提案を台湾の人々が受け入れ、平和的な統一が実現することである。もう一つは、いざという時には武力を使ってでも台湾を統一するという方針を、中国が断念して撤回することである。

 

 まず前者についてだが、台湾の人々は、中国の圧力を回避するため「独立」を声高に表明することはないけれども、同時に「一国二制度」も強く拒否している。そうした世論は年々高まっている。筆者とて、台湾の人々に対して、現在の中国と統一せよと求めるつもりはない。

 

 だが、台湾と同程度に民主化された将来の中国となら、別の選択肢をとれるのではなかろうか。もちろん、常識的には中国が民主化されるなどあり得ないし、その道筋が見えているわけではない。いくら欧米が「民主主義対専制主義」の対決を叫んでも、「それは欧米の価値観」と切り捨てて恥じないのが中国である。しかし中国にとって「核心的利益」に属する台湾問題は、中国を変化させる動機になり得ないだろうか。欧米による専制批判に精一杯反発する中国だが、「同胞」である台湾による中国民主化の呼びかけも無視できるのだろうか。その検討が必要である。

 

 次に後者であるが、武力統一の方針を放棄させる可能性も、中国に対する現在の常識からは出てこないかもしれない。ただし、あとで詳しく書くように、米中国交正常化の過程で、アメリカは強くそのことを主張したのである。武力統一の方針を撤回させることは、本来、国際社会が中国に求めるべきことなのだ。ところが、このアメリカの求めに対して、中国は「内部問題への干渉だ」として一蹴することになる。アメリカもまた、戦後一貫して中国の存在そのものを認めない外交方針をとってきた負い目から、その主張を貫くことができなかった。

 

 けれども、その種の間違った外交方針とは無縁の国々、無縁の人々なら、正論を中国に堂々と言えるだろう。内部に独立問題を抱える国は、スペイン、カナダなどいくつも存在するし、日本においても沖縄独立論があるが、そのような平和的な主張と運動を「武力で阻止する」と脅すような国は存在しない。その当然のことを中国に認めさせるのである。

 

 くり返すように、もちろんそれは簡単ではない。しかし、台湾有事を前提とした議論では、この地域の戦争と多大な犠牲を防げないとすれば、どんな困難な道であっても探求する価値があるのではないか。その探求に付き合っていただければ幸いである。(了)