そうは言っても、「一つの中国」はアメリカや日本など世界のほとんどの国が認める国際政治上の大前提であり、したがって台湾問題は中国の内部問題だという見方があります。アメリカなどが「一つの中国」の立場に立っているのは事実であって、そこには国際政治の現実の投影があり、国家がその立場に縛られるのは当然のことです(国家は縛られるが平和・市民運動は必ずしもそうではないというのが大事なのですが、それはのちほどふれます)。I東さんも「疑問」の中で、国家に対する内乱を治安出動で武力を使って鎮圧することについて、合法的なことだと書いておられました。

 

 しかしまず、内乱を武力で鎮圧することが合法だとして、台湾の人々の「独立志向」は、果たしてその種の内乱に当たるでしょうか。内乱といえば、通常、政府を不法に転覆するための武力闘争のことですが、台湾の独立は中国にとっては「不法」なことではあっても、台湾の人々は中国政府を転覆しようとしているわけではないし、ましてやその目的のために武力を行使しようとしているわけでもありません。あくまで平和的に「独立」なり「現状維持」の気持ちを表現しているだけです。

 

 そして、平和的に意思表明をしている人々に対して武力をもって鎮圧することは、たとえ一国内のことであっても、国際社会が批判して介入すべき重大な人権侵害であり、国際問題としての性格を有することになります。I東さんには釈迦に説法になってしまいますが、ナチス・ドイツによる人道犯罪の教訓をふまえてつくられた国際連合の憲章が、第一条の目的で「すべての者のため」の「人権」と「基本的自由」を掲げていること、その後に世界人権宣言や国際人権規約をつくってきたこと、内部機構である人権理事会が各国の人権問題を審議し、勧告その他を採択していること、南アフリカのアパルトヘイトのように重大な人権侵害の場合は経済制裁も辞さなかったことなど、いくつも事例を挙げることができます。

 

 だから、世界のいくつかの国は独立問題を抱えていますが、平和的にその運動が行われている場合、武力で阻止しようとする政府はありません。ケベック州を抱えるカナダ、カタロニアやバスクを抱えるスペインもそうです。日本の場合も、たとえば沖縄から独立運動が盛り上がったとして、治安出動を行って武力で弾圧することが合法だとは、誰も言えないでしょう。

 

 なお、台湾の事例から外れますが、武力でしか人民の意思を貫けない場合、かならずしも内乱が違法だということにもならないと思います。かつてアジア・アフリカの多くの人々が武器を持って立ち上がり、独立を勝ち取った時、植民地宗主国はそれを「不法」だとみなして鎮圧し、たくさんの血が流れました。それでも現在、植民地諸国の人々の闘争は、合法だったと評価されています。(続)