さて、今回から、中国がいざという時には台湾武力解放の方針を持っていることを、日本の市民・平和運動がなぜ、どのように批判しなければならないかという問題である。この連載の本筋である。

 

 その前提として、中国のそういう方針が、習近平時代になって現実味を帯びていることを書いておく。それは、すでにふれたが、1979年1月1日の「台湾同胞に告げる書」、およびそれを具体化した81年の葉剣英談話と、2年前の「台湾同胞に告げる書」発表40周年記念会での習近平演説を比べて見れば明らかである。

 

 「台湾同胞に告げる書」には以下のような記述がある。

 

 「中国政府は、本日より人民解放軍に金門などの島嶼に対する砲撃を停止するよう命令しました。現在の台湾海峡両岸には、双方の軍事的な対峙が存在しており、これは人為的な緊張を作り出すだけです。私たちは、まず中華人民共和国政府と台湾当局が交渉し、このような軍事対峙状態を終息させ、双方のなんらかの交流に必要な前提と安全な環境を作り出す必要があると考えます」

 

 そうなのだ。もちろん、この時点でも、中国はいざという時に武力解放に踏み切る方針を持っていただろう。しかし、統一の相手である台湾の人々に呼びかけるにあたって、そんなことはおくびにも出さなかった。それどころか、軍事的緊張を弱めることが大事だと声明し、実際にそのための措置も取ったのである。

 

 葉剣英談話は、その「台湾同胞に告げる書」で取った措置の結果として、「台湾海峡には緩和の空気が現われた。ここでわたしは、この機会を借りて、台湾祖国復帰、平和統一実現の方針、政策をいっそう明らかにしたいと思う」という基本的立場を明らかにした。そして、提示する「一国二制度」の中身を次のように述べた。

 

「3. 国家の統一が実現してのち、台湾は、特別行政区として,高度の自治権を享有することができ、また、軍隊を保有することができる。中央政府は、台湾の地方の事柄に干渉しない。

4. 台湾の現行社会・経済制度を変えず、外国との経済・文化関係を変えない。個人の財産、家屋、土地、企業の所有権と合法的な相続権及び外国の投資は、侵犯されない。」

 

 「現行社会・経済制度を変えず」というところが、結局は政治制度は変えるという意味であり、現在の香港問題につながる大問題であることはすでに述べた。しかし、それでも、いざという時には武力解放という言葉はどこにも出てこないし、香港と異なって軍隊の保有まで認めている。

 

 統一をめざす相手に対するリスペクトを感じさせるものだと感じる。しかし、その40年後の習近平演説は、そういうものとは真逆である。(続)