なかなか難しい問題である。現在の米中対立の中で持つ意味を考えさせられる。

 

 中国をめぐってアメリカが恐れているのは、第二次大戦後にアメリカが主導してつくった国際秩序が、力をつけてきた中国に覆されるのではないかということだ。70年代の米中国交正常化以降、アメリカは、中国が憎き共産主義国家であることには目をつぶって(当初は反ソなら何でも良かったし)、中国を育て上げるという姿勢を貫いた。投資もしたし、大量の留学生を迎え入れたし、それを継続していけば、改革・開放がそのうち政治体制にも及んでくることを期待し、多少の技術流出も黙認してきたわけである。

 

 ところが、気づいてみると、中国の力はすぐ背後にまで迫っている。経済、科学技術、軍事など広範囲にアメリカの力は脅かされている。なのに、ずっと期待していた政治体制は開放に向かうどころか、どんどん独裁体制が強まっている。

 

 トランプからバイデンに続く対中政策の転換は、そこへの怯えから来ていて、動機に不純なところがあるものだから、打ち出す政策にも支離滅裂さが見られる。中国を既存の国際秩序を覆す勢力だと描き出そうとすることで、ルールに従っている世界の国々にも警戒心を持たせようとしているわけだ。

 

 中国のTPP加盟申請は、そのアメリカを窮地に追いやることが一つの目的だろう。中国は既存のルールに入ってそれを守ろうとするが、アメリカこそがTPPから離脱したではないかという宣伝に使うわけである。きっと。

 

 実際の中国の行動を冷静に見ると、既存のルールを外から変えようとしていると単純には言えないところがある。WTOでの行動は、どちらかというとまず既存のルールの中で多数者となって、影響力を発揮しようとしているようだ。もちろん、フィリピンとの領土紛争では、仲裁裁判所の判決をゴミ扱いするわけだから、都合の悪いルールは守らないところははっきりしているのだが。

 

 本日の産経新聞を見ると、日本政府は、TPPへのアメリカの復帰を促しつつ、半導体産業が集積する台湾も加盟させようと考えていたらしい。佐橋亮さんの『米中対立』を読むと、アメリカのことを「半導体社会主義国」と呼ぶ人もいるほど、半導体問題は今後の焦点になっていくかもしれない。中国のTPP加盟申請は、そこにくさびを打ち込もうということだろうか。

 

 そういうことも含め、考えるべきことは山積みしている。中国に対する批判の仕方は、アメリカのように単純な(恐怖心にかられた)ものであってはならず、もっと練られたものにしていかなくてはならない。