この大河が今後どのようになっていくのかは分からないが、渋沢栄一が主人公なのだから期待したいのは、日本資本主義の生成と発展をどう描くかということである。明治維新をそういう見地で描いたものを見てみたい。
 
 明治維新というと、私が不勉強だからなのだが、あまりに政治史としての描かれ方に偏重しているという感想を持つ。廃藩置県とかである。明治になって資本主義が発展したのは明白なのだが、それと政治の動きの関連が見えてこない。
 
 明治政府が産業革命を強力に推進したことは確かである。西欧列強に追いつくためにいろいろな政策を総動員した。しかし、いくら政策を打ったとしても、日本に資本主義を誕生させ、発展させる準備がないとうまくいかないはずである。
 
 ドイツ史などをみていると、たとえばマルクスなどが革命を推進するわけだが、マルクスが最初に就職した「ライン新聞」というのは、資本家が創刊したものである。資本家は資本主義的な政策を熱望するのだが、当時のプロイセンの政治制度、経済制度がその障害となって立ち塞がっている。それを打ち破るためにマルクスを編集長に迎え入れ、ともに自由な政治制度のために戦うわけである。封建制度のもとで資本主義は熟していた。だからこそマルクスは、資本主義的な発展が開始されたばかりのドイツでも、共産主義の展望を語ることができたわけだ。
 
 日本の場合、このドイツで起きたようなことは、どうだったのだろうか。もちろん、そのドイツと比べても、圧倒的に経済的な遅れがあったことは否定できないだろう。労働者層も形成されていない。でも、どこかに明治期の資本主義の発展を可能にするような芽があって、それを明治政府がそれなりにつかんで政策を打ち立てるということがあったのではないだろうか。
 
 徳川慶喜に仕えた渋沢が明治政府でその政策を担ったわけだが、江戸時代に封建制度が日本の発展を阻害していることに渋沢が気付き、明治政府でその打開を目指したというストーリーが成立するなら(そんな綺麗な話ではなくても)、江戸から明治への不連続の中の連続という、魅力的な話になるような気がする。政治史ばかりだった明治維新の新しい描き方になる。少し期待して見守りたい。
 
 写真は東京駅北側の呉服橋近くにある渋沢栄一像。先日の東京出張の際に撮影しました。(了)