『枝野ビジョン』の最大の問題点は、そのビジョンをどうやって実現するのか、その道筋が書かれていないことである。具体的に言えば、どうやって国会で政策を実現するための多数を実現するのか、その道筋のことである。

 

 外交と安全保障のところしか見ていないが、野党共闘という言葉すらない。全体に目を通した人に聞いたけれど、他の箇所でもその言葉は使われていないそうだ。

 

 いや、これはあくまでビジョンであり政策だから、道筋は必要ないということかもしれない。しかし、多数を占める与党ならビジョンで済んでも、少数野党の場合はそれでは済まされない。多数にならないとビジョンを実現することはできないのだから。

 

 しかも、候補者一本化が野党をめぐる政治の最大の焦点となっている時である。それなのに、そこへの言及がないまま「素晴らしいビジョンだから任せてください」と言われても、現実味を持って読み進めることはできないのではないだろうか。

 

 まあ、その道筋が連合や国民民主の言う通りの道でも、共産党に配慮する道であっても、どちらもイバラの道ではある。しかし、総選挙まで何か月を切ったという時点なのだ。最悪なのは、どの道を進もうと思っている人にとっても、議論のないまま、選びようのないまま、ある時点で結論的な道が提示されることである。

 

 この本の別の箇所では、安倍首相時代に自民党から多様性が失われたことが指摘されている。じゃあ立憲は多様なのかと問われれば微妙だが、野党全体を見れば多様なことは間違いない。

 

 いわゆる「政権」がどんな枠組みでつくられようと、野党全体が何らかの協力関係を築かなければ、政権はおぼつかない。それなら、バラバラだと批判されようとも、その多様性をベースにして議論を起こすしかないだろう。

 

 議論が決裂する可能性はゼロではなかろう。だけど、多様性の中ではげしく議論し、それでも一致点を保つことに習熟しないと、政権など夢のまた夢である。次回からは経済社会の問題に移る。(続)