なぜ地表にある障害物の上端から300メートルという規定があるのか。昨日引用した航空法施行規則に戻って見てほしいのだが、「飛行中動力装置のみが停止した場合に地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる」ようにするためとされていることに注目してほしい。

 

 ヘリコプターで目的地に向かって飛んでいる時、エンジンが事故で停止することがある。「飛行中動力装置のみが停止した場合」だ。その際、300メートルあれば「地上又は水上の人又は物件に危険を及ぼすことなく着陸できる」可能性があるから、この規定が設けられているのである。

 

 ヘリコプターというのは、エンジンが事故で停止した場合、そのまま地表に向けて落下してくるわけではない。ヘリコプターというのは、エンジンが停止しても、オートローテーションといって、下から巻き上げられる風を利用してローター(羽)を回すことが可能なのである。落下は続くのであるが、パイロットはローターを回しつつヘリを制御し、安全な着陸地点を探すのである。

 

 2004年の沖縄国際大学の事故の際も、パイロットは安全な着陸地点として、大学のキャンパスを選んだ。それ以外にも、よく小学校のグラウンドに落下したというような報道があるが、日本の人口密集地の場合、ほとんど人家がいっぱいで、学校のグラウンドとか公園くらいしかパイロットは頼ることができないのである。

 

 そして、高度が高ければ高いほど、そうした空き地を見いだす可能性が高くなる。だから、ただ横田から赤坂を移動するならば、通常は300メートルということではなく、もっと高い高度を飛んでいるはずである。東京都心上空のように、世界でも稀な人口密集地であるなら、それが当然なのだ。

 

 そんな東京都心上空で300メートルの高度の訓練空域を設定し、しかもそれ以下の高度で訓練していると公言するわけだから、どんなに危険なことか分かるはずである。近くにグラウンドや公園がなければ人家に落ちてくるし、グラウンドや公園だって子どもが遊んでいる確率が高いのだ。

 

 そんな訓練空域を設定されたというのに、それが明らかになった2013年4月21日の米軍横田基地主催の会議に参加した自衛隊の担当者は、抗議はもちろん意見を述べることすらしなかったようだ。それは当然で、日本政府は米軍が日本の上空のどこで訓練空域を設定しても、それが実弾射撃訓練を行うものでない限り、米軍の権利であって、日本政府の関知するところではないという態度をとっているからである。それが日米地位協定の定めだと言い切っているからである。

 

 まあ、普通の常識人には信じられないことだろうけれど、それが日本政府の態度だ。なぜそうなるのか、いつからそんな解釈になったのか、どう克服すべきかについては、土曜日に出演する番組でも詳しく語りたい。(続)