何回目かに、この問題では抑止力は効かないという話をした。たとえ傷ついても破壊されても、本気で領土を取りに来る相手に対しては、威嚇は何の役にも立たないからである。抑止が破綻したときにはこちらも本気の戦争を辞さないというのでないと、相手にはメッセージが伝わらない。

 

 それにくわえて、台湾問題では、抑止力が逆効果になる場合があることを考えておかねばならない。いまアメリカは、その間違った道を進みつつある。

 

 アメリカの対中戦略の基本の一つは、あまりにも中国の軍事力が強大で、少なくともこの地域での軍事対決では自力で勝つことができないものだから(本土から何十万のも来援部隊が来るまでの間であるが)、他の国を巻き込もうとしていることである。

 

 イギリスやフランスの艦隊までがこの地域にやってきて軍事演習をしているのは、仲間が多ければ威嚇の度合いも強まると考えているからだろう。そして、アメリカにとってもっとも頼れる相手が日米軍事同盟下の日本ということである。

 

 何が逆効果かといえば、説明不要だろうが、アメリカが仲間として引き込んでいる国は、どれも中国の主権を侵害し、半植民地化した張本人だということである。中国人の怨みが残っているということだ。

 

 だから、中国にとっては、かつて自分たちを乱暴に犯した国が、またもや中国の不可分の領土を虎視眈々と狙っているということになる。別に日本もイギリスもフランスも、中国の領土をほしがっているわけではないが、かつての「実績」がじゃましてそう宣伝することが可能になり、台湾を手放さないという中国国民の愛国心に火を付ける役割しか果たさないのである。

 

 これは、抑止力が何の役割も果たさないということではない。アメリカは、イギリス、フランス、日本と違って、中国の領土を取りに来たことはない(遅れてやってきたので「門戸開放」政策しか取れなかったという見方もあるが)。どちらかと言えば、義勇軍その他を派遣しい、日本の野望と戦った側にいた。

 

 だから、アメリカが抑止力で対応しようとしても、中国は、「アメリカが再び領土的野心をもって……」という宣伝をすることができない。現在の米中の経済交流の深さを考えても、アメリカと軍事的に事を構えるのは得策ではないという判断は働きやすい。

 

 つまり、アメリカは、台湾問題で抑止力を効かせようと思うなら、他国を巻き込まず、自力で対処することを基本にするべきなのだ。これは日本を巻き込ませないために言っているのではなく、アメリカのためになるから言っているのである。(続)